「誰が、責めるんですか」
傷つけて傷つけられて、痩せ細ってしまった心を守ってくれるのは誰?
自分を“死”へ追い込むしかなかった人に、必要なものは何?
錆びた鉄を火にくべて鍛え直すように──厳しい言葉で心を打ち直して、再生させてあげること?
それとも……全てを許してあげること?
「必死に、ここまで生きてきたんじゃないですか……足掻いて、もがいて、苦しんで悩んで、打ちのめされて……それでも生きてきたんじゃないですか!!この手で、この足で、少しずつでも進んできたんじゃないですか!」
ジローさんにとって何が必要なのかなんて、私にはわからない。
わかるはずもない。彼と過ごしたのは、まだほんの少しの時間なんだから。
それよりも何倍もの時間、ずっと苦しみ抜いてきた彼の葛藤を、人生経験の浅い私なんかが理解できるわけないのに。
なのに……そんな私に、彼の瞳が救いを求めるのは──私が、“花鳥響”の妹だからだとしても。
“私自身”の言葉を、彼に届けたかった。
「そんなあなたを、誰が責めるんですか……!!」
ぐちゃぐちゃに泣いて、顔がぐしゃぐしゃになっても。
ジローさんは何も言わずに、私の涙を拭ってくれていた。
怖じ気づくほどに冷たかった瞳から、その色が消え──次第に穏やかな光が戻っていった。
「……私、思うんです。自分を許せるのは、結局他の誰でもなく……自分だけなんだって。ね?ジローさん……もう許してあげましょう?」
泣きながらジローさんに笑いかけたけど、彼はやっぱり無表情だった。
「私、ジローさんが好きです」
その一言に、ジローさんは僅かに目を見開いた。
私がとんでもない爆弾発言をしたんじゃないかと気づいたのは、
「お前、俺のこと好きなの?」
ジローさんにしては珍しく、驚きの混じった声色でそう返されたからだった。
私も自分自身の発言に、ビックリするしかなかった。
ジローさんと私は、互いに呆気に取られた表情で見つめ合っていた。
……え、私、……今なんて言ったっけ。
『好き』って、言ったの?
ジローさんに『好き』とか言っちゃったの!?
待って、それって……
まさかまさかの、うっかり告白!?
突如、右から左から、前から後ろから──ひやかすような指笛の音が飛んできて。
それがおにーさん達の仕業だっていうのは、確認しなくたってわかる。
「ほ~。犬っころが主人に愛のコクハクか~。へ~。種別を超えた禁断の愛だな~」
なんて。タイガもからかってきたりして。
ハイジは……わかんない。ハイジの声は、聞こえてこなかった。
「あ、あ、あの!違うんです!私、小春も好きだし……あ、小春っていうのは、この前ジローさんが助けてくれた私の友達で……その、えっと、他にも……そう!タイガとかハイジとか、それなりに好きだし!ケイジくんや飛野さんも好きだし!みんな、みんな好きなんです!!」
究極のパニックに陥った私は、無我夢中で言い訳して、とにかく早口で逃げた。
タイガとハイジに「『それなりに』とはなんだ、それなりにとは」ってツッコまれたけど、そんなことに構ってる場合じゃない。
「大好きなんだろ。ホントは抱かれてえくせに」と続けられた時には、もうウザくて仕方なかった。


