声を荒げることはないけれど、やけに抑えた低音が逆に不安を煽り立てられる。
「……何って、何が?別に何にもないけど」
私はハイジの問いに、それだけを答えた。
ハイジが聞きたかったのはそういうことじゃないだろうけど、コイツに言う気もなくて、わざとそう返した。
もしかしたら……ううん、きっとハイジは、私の事情を耳にしてるんじゃないかと思う。
どこまでを把握しているかは知らないけれど、私が騒動を起こしたこと、一年の間で問題になってること。
それくらいは、聞いてるんじゃないかって。
ケイジくんだってわかってたみたいだし。
この人達、情報回るの速そうだもん。
でも……思い返せば、田川と本城咲妃に向かっていったのも──
「嘘つくんじゃねえよ」
もとはといえば、ハイジが原因だった。
キライなのに、セクハラしてくるのに、ムカつかされてばっかりなのに。
私のストレスメーターの針を、振り切らせるヤツなのに。
どうしてだったんだろう。
どうして私……
ハイジを悪く言われるのが、嫌だったの?
私、もしかして本当はハイジのこと……
………………
…………
いや、ない!!ぜっっったいにない!!
断じてないと言い切れる!!
コイツだけは!コイツにだけは……!!
「おい、聞いてんのか。何を一人で楽しそうにしてんだ」
「ふぎゃああああ!!」
妙な気持ちを打ち消したくて、目をつむり頭をふるふるさせていると──ヤツは私のスカートの裾をつまみ、遠慮なんかちっともせずにめくってきた。
「なな、何てことすんのよヘンタイ!!」
今日はうさぎちゃんパンツなんだよ!!
コイツに以前くまちゃんパンツを晒してしまった手前、またお子ちゃまパンツを穿いてると思われたくない!!
あんだけバカにされたし!!
すぐにスカートをバッと抑え、どうにかヤツにうさぎちゃんパンツがバレるのを防いだ。
ほんっとにこの男はどこまで無礼なんだ!!
私を何だと思ってるんだ!!
怒りをこめて、ハイジを睨んだ。
だけど、ハイジは
「ソレ、誰にやられた」
依然としてフザけることなく、いつもみたいに意地悪に笑うわけでもなく、哀れむわけでもなく。
一言、凄味をきかせた声で、私の逃げ場をなくさせる。
今、見られた……?
あの“アザ”を。
ハイジは、気づいてたの……?
「何とか言えよ!」
苛立ち混じりにヤツに肩を掴まれて、反射的に体が強張った。

