気まぐれヒーロー2




声を荒げることはないけれど、やけに抑えた低音が逆に不安を煽り立てられる。


「……何って、何が?別に何にもないけど」


私はハイジの問いに、それだけを答えた。

ハイジが聞きたかったのはそういうことじゃないだろうけど、コイツに言う気もなくて、わざとそう返した。

もしかしたら……ううん、きっとハイジは、私の事情を耳にしてるんじゃないかと思う。

どこまでを把握しているかは知らないけれど、私が騒動を起こしたこと、一年の間で問題になってること。


それくらいは、聞いてるんじゃないかって。

ケイジくんだってわかってたみたいだし。

この人達、情報回るの速そうだもん。


でも……思い返せば、田川と本城咲妃に向かっていったのも──


「嘘つくんじゃねえよ」


もとはといえば、ハイジが原因だった。


キライなのに、セクハラしてくるのに、ムカつかされてばっかりなのに。

私のストレスメーターの針を、振り切らせるヤツなのに。


どうしてだったんだろう。

どうして私……

ハイジを悪く言われるのが、嫌だったの?



私、もしかして本当はハイジのこと……

………………

…………


いや、ない!!ぜっっったいにない!!

断じてないと言い切れる!!

コイツだけは!コイツにだけは……!!



「おい、聞いてんのか。何を一人で楽しそうにしてんだ」

「ふぎゃああああ!!」



妙な気持ちを打ち消したくて、目をつむり頭をふるふるさせていると──ヤツは私のスカートの裾をつまみ、遠慮なんかちっともせずにめくってきた。


「なな、何てことすんのよヘンタイ!!」


今日はうさぎちゃんパンツなんだよ!!

コイツに以前くまちゃんパンツを晒してしまった手前、またお子ちゃまパンツを穿いてると思われたくない!!

あんだけバカにされたし!!


すぐにスカートをバッと抑え、どうにかヤツにうさぎちゃんパンツがバレるのを防いだ。


ほんっとにこの男はどこまで無礼なんだ!!

私を何だと思ってるんだ!!


怒りをこめて、ハイジを睨んだ。


だけど、ハイジは


「ソレ、誰にやられた」


依然としてフザけることなく、いつもみたいに意地悪に笑うわけでもなく、哀れむわけでもなく。

一言、凄味をきかせた声で、私の逃げ場をなくさせる。


今、見られた……?

あの“アザ”を。


ハイジは、気づいてたの……?



「何とか言えよ!」



苛立ち混じりにヤツに肩を掴まれて、反射的に体が強張った。