「価値観ってどんな? そういえば、ロゼッタは公爵夫人のお茶会でもライノア様に遭遇したんだっけ?」

「そうですの。彼ったら『着るに困らず、雨風のしのげる家で眠ることができ、お腹を空かせることもない――それだけでも十分幸せなこと』だなんておっしゃるのよ?」

「え? いいじゃない! すごく謙虚で堅実な感じで」

「えぇ……?」


 興奮した様子のクロエに戸惑いつつ、ロゼッタはそっと視線を背ける。
 ――と、一人の男性が視界の端に飛び込んできて、ロゼッタの心臓がドクンと大きく脈打った。


(え? 嘘……嘘!)


 見間違いかもしれない。きちんと見て確かめるべきだ――そうわかっているが、嫌すぎて体が拒絶反応を起こしている。手も足も動かないし、呼吸すらうまくできない。


(嫌よ、嫌、会いたくない。絶対に会いたくない!)


 瞳に薄っすらと涙がたまる。
 苦しさとパニックのあまり、ロゼッタは膝から崩れ落ちた。