「相手があなたなら、騎士たちが喜んで介抱してくれそうですけどね」

「まあ、そうでしょうね」


 ロゼッタは笑顔を貼り付けたままライノアのほうににじり寄る。それから、彼の耳元に唇を近づけ「話がしたいんです。黙って少し付き合ってください」と、囁いた。


(面倒くさいな)


 ロゼッタはなにごともなかったかのようにニコニコと朗らかに微笑んでいる。このまま彼女の申し出を断れば、悪いのは不親切なライノアのほう、ということになるだろう。
 ライノアは小さくため息をつきつつ、ロゼッタと一緒に王太子の執務室を出た。


***


「で? いったい僕になんの用なんですか?」

「マルクル様の反応を知りたかったのです。どうです? 脈がありそうでした?」


 ライノアが単調直入に切り出せば、ロゼッタはすぐにそれに応じた。


「……本当に隠す気がないんですね」

「まどろっこしいのは嫌いですの。だって、時間がもったいないでしょう?」


 ロゼッタはそう言ってふふ、と笑う。ライノアは思わずムッと唇を尖らせた。