「待ってください、お兄様。だったら、ロゼッタがどうしてお兄様では満足できないか、わかるでしょう?」

「残念だけどわからないな。王族――俺だって十分すぎるほど資産を持っているだろう? おそらくロゼッタ嬢は、税金で生活をするという感覚や、自由にお金を使えないことが不服なんだろうけど、そんなものは一度王族になってしまえば慣れるものだ」


 見透かされている――ロゼッタはクローヴィスを見つめながら、ゆっくりと深呼吸をした。


「わ……わたくしが王族になれば、国が傾きます。無駄遣いをして民衆の怒りを買い、革命を引き起こした稀代の悪女になってしまうやも……」

「大丈夫。そういう発想ができる時点で、君は良識的な範囲でしか動けない人間なんだと思うよ。そもそも、王族を結婚相手から除外するなんて考え方ができるのだから、悪女としての素質はあまりないよね。本物の金の亡者なら、たとえば大幅な増税をしてそのお金で悠々自適な生活を送っても、良心なんて一ミリも痛まないだろうから」


 クローヴィスはそう言うと、いつものようにヘラヘラと脳天気な笑顔を浮かべてみせた。先程までの鋭さはどこへやら。クローヴィスの本質がわからず、ロゼッタは混乱してしまう。


「そういえば、先日ロゼッタ嬢のお父様とお会いしたんだよ」

「え?」


 その瞬間、ロゼッタの心臓がひときわ大きく脈打った。クローヴィスがロゼッタをまじまじと見つめている。