「いいえ」


 ロゼッタが必死に目を伏せる。トゥバルトを口説く絶好の機会だというのに、どうしても気分が上向かない。自分らしくないと思うけれど、どうしてこんなふうになってしまったのか、ロゼッタ自身がわからないのだ。


「ロゼッタ嬢……?」

「…………」


 早く明るく振る舞わなくては。彼に気に入られるよう、気の利いたことをいわなければならない。わかっている。けれど、身体が思うように動かない。


(トゥバルト様は諦めなければダメね)


 こんな鬱々とした女性を選びたいと思う男性なんて存在しないだろう。すっかり自己嫌悪に陥ってしまったロゼッタは、内心で大きくため息をつく。そろそろ会話を切り上げなければと思ったそのときだった。


「よかったらまた会ってもらえないか? 今度はここではない、別の場所で。一緒に食事でもどうだろう? 君のことをもっと知りたいんだ」

「……え?」


 ロゼッタがそろりと顔を上げる。トゥバルトは優しく微笑みながら、ロゼッタのことを見つめていた。