「若いご令嬢にとって、すでに娘のいる男との縁談は好ましくないのだろう。しかも、俺が『一番大事なのは娘』だと公言しているのだからなおさらだ」

「そんなことございませんわ。結婚相手より子供を大事に思うのは当然のことです。わたくし、ますますトゥバルト様を素敵だと感じましたわ」

「ロゼッタ嬢は優しいな。これまで、そんなふうに言ってくれる女性はいなかった。自分を一番に思ってほしいと皆一様に怒っていたからな」


 トゥヴァルトはそう言ってどこか遠い目をする。


(それはまあ、価値観の違いですわね)


 ロゼッタはトゥバルトをちらりと見上げたあと、静かにそっと目を閉じる。

 ロゼッタが愛しているのはお金であり、その持ち主ではない。だから彼女は、男性に自分自身を愛してほしいと思ったことは一度もなかった。彼らはただ、ロゼッタにお金を与えてくれればそれでいい。つまり、トゥバルトにロゼッタ以上に大切な存在――娘がいたとしても、一向に構わないのである。

 けれど、普通の女性はそんなふうには思えないのだろう。自分をなにより大切にしてほしい。愛してほしい。そして、幸せにしてほしい――それが一般的な感覚だ。
 ロゼッタからすれば、そんな価値観のために金持ちをみすみす逃すなんて愚の骨頂だけれど。