「マルクル様はたしか、二十一歳でいらっしゃるんですよね? まだ若いのに社交界での顔も広く、将来の侯爵様として将来を渇望されているとおうかがいしています。今夜お会いできて本当に嬉しい……」

「ロゼッタ嬢は褒め上手だね。嬉しいなぁ。なんか運命を感じちゃうよねぇ」

「――従兄弟(にい)さん、またそんなこと言って。あなた、婚約者がいるでしょう?」

「そんなこと、当然存じ上げております」

「え?」


 ロゼッタの返事にライノアは己の耳を疑う。


(知っている? それなのに従兄弟さんに近づこうとしたのか?)


 夜会というのはお見合いのような場でもあるため、出会いを求めて会話を楽しむ男女はとても多い。結婚を最終目的とするなら、既婚者やすでに婚約者のいる相手と話しても時間の無駄だ。普通なら当然、避けて通るというのに……。


「それではマルクル様、今夜は楽しいひと時をありがとうございました。またぜひお会いしてみたいですわ。……今度はふたりきりで」


 ロゼッタは花のようにふわりと微笑むと、マルクルの手になにかをそっと握らせる。それから彼に目配せをし、クロエといっしょに会場のどこかへ消えていった。


「……なんなんですか、それ」

「どれどれ。これは――ロゼッタ嬢のプロフィールと連絡先の書かれたカードだな。ロゼッタ・クロフォード……伯爵家のご令嬢か。年は十七歳、セリーナ殿下の侍女。ご丁寧に手紙の送付先や休日の情報なんかも書いてあるな」


 ハハッと楽しそうに笑いながら、マルクルはライノアにカードを渡す。と同時に、ロゼッタの甘い香りがぶわりと香った。