(やめて……お願いだからやめてよ)


 ロゼッタの心臓がバクバクと鳴る。喉がキュッとしまるような心地がし、ロゼッタはゴクリと息をのむ。


「――そうですね」


 ライノアが口を開く。ロゼッタは思わず目をぎゅっとつぶった。


「こんなに美しいご令嬢のお相手にとおっしゃっていただけて、とても光栄です。ありがとうございます」

「……え?」


 ふと顔を上げれば、ライノアは至極柔らかな笑みを浮かべている。恥ずかしさのあまり、ロゼッタは顔が熱くなった。


「けれど、今の僕はなんの実績もない文官ですから。いつかほんとうの意味でロゼッタ嬢のような女性に見合う、結果を出せる男になりたいと思っています」

「まあ……!」

「なんて謙虚なの!」

「素敵だわ! 私応援しちゃう!」


 夫人たちがライノアを取り囲み、大いに盛り上がる。ロゼッタはもう、口を挟む気にはなれなかった。