「わざわざ見送りに来てくださったのですか?」

「当たり前じゃない! もう! そんな水臭いこと言って……寂しくなるなぁ」


 セリーナは言いながら、段々涙ぐんでいく。王族ゆえに大人びて見えるが、ロゼッタよりも年下のまだ十五歳の少女なのだ。ロゼッタはポンポンとセリーナの肩を叩いた。


「またすぐにお会いできますわ。わたくしの籍は残しておいてくださるのでしょう?」

「ええ」とうなずくセリーナに目を細めていると、クローヴィスがじっとライノアを見つめていることに気づいた。彼はしばらくそうしたあと、徐ろに口を開く。


「泣かせるなよ」

「――はい」


 ライノアが返事をすると、クローヴィスはムッと唇を尖らせる。


「常に美味しいものが食べられて、好きなドレスが着られて、夜会やお茶会は思うがままに出席できる環境を作るように。それから――」

「お兄様、小姑じゃないのですから……」


 なおも続けようとするクローヴィスをセリーナが止める。クローヴィスは小さくため息をついてから「俺が控えていることを忘れないように」と付け加えた。