「ですから、わたくしも隣国へ連れて行ってください! そうすれば、すべてが丸く収まりますもの!」

「すべてって……」

「あなたは将来宰相になるための経験が積めるし、お金持ちへの道も拓ける。そうすれば『今』のわたくしも『未来』のわたくしも幸せにできる。これしかないと思うの」


 ロゼッタは真剣だった。
 お金を諦めたくはない。けれど、それ以外の幸せ――愛も諦めたくはない。未来の幸せのために今を手放したくもない。だから、どちらも手に入れる。ロゼッタはもう決めたのだ。


「あなたという人は……」


 ライノアはそう言ってしばらく押し黙ると、声を上げて笑いはじめた。彼がこんなふうに笑うのははじめてのことで、ロゼッタは少し戸惑ってしまう。
 けれど、その表情がとても嬉しそうで、とんでもなく温かかったから、一緒になって目を細める。


(――うん。これがわたくしの幸せ)


 ロゼッタはライノアを抱きしめ返しながら、そう実感するのだった。