「なによそれ……」

「だって、今の僕ではあなたを心から幸せにできないでしょう?」


 ライノアはそう言って、ロゼッタの涙を拭った。


「僕は王子でも資産家の領主でもない、ただの文官です。ロゼッタ嬢が求める生活を叶えられるだけの力がありません。けれど、僕はロゼッタ嬢が好きです。あなたを幸せにするのは僕でありたい。そのために必要な力を手に入れたくて、僕は隣国に行くことを決めました」

「だけど――」

「だけど、ほら。会えばやっぱり行きたくなくなった」


 ライノアは困ったように笑いながら、ロゼッタのことを抱きしめた。