「だったら、クロエ嬢も一緒に食事をしよう」

「え? えぇと……」


 どうしてそんな結論に至るのよ、とロゼッタはうろたえながらクロエを見る。普通は用事があると言われたら引くだろう。けれど、ここで引かないのがクローヴィスという男なのだ。


「(私は構わないわよ)」


 と、クロエは口パクでそう返事をしてきた。


「(王族――というか、イケメンと食事ができるなんて、いい機会だもの。きっととびきり美味しいものを準備してくださると思うし)」

「(相手が王族じゃなくとも、美味しい食事はできますわ! わたくしにとっては美醜はどうでもいいことですし)」


 目だけで会話を交わしながら、ロゼッタは頭が痛くなる。


「(というか、今日の夜会には財界のドンが顔を出すって噂ですのよ。この機会を逃すなんて愚かすぎますわ)」

「(だけど相手はクローヴィス殿下なのよ! 殿下の機嫌を損ねたら、王命で結婚をしなきゃいけなくなる可能性だってあるでしょう?)」

「(そんなの絶対嫌ですわ! だけど、だけど……)」


「お兄様、先約があると言っているのですから、今夜については諦めてください」


 と、凛とした声音が背後から聞こえる。