(だけど、それじゃいけない)

「ライノア様はこういうカフェ、大丈夫ですか? 嫌だったら別の店にするので、遠慮なくおっしゃってくださいね」


 クロエがライノアに微笑みかける。ライノアは「ええ」と微笑み返した。


『わたくしはこの店がいいのです。あなたが嫌でも、わたくしはここでお茶がしたいから、付き合ってくださいね!』


 と、すぐに頭の中のロゼッタが主張する。

 はじめは、とんでもない女性だと思った。自己主張が激しすぎるし、正直すぎる。まどろっこしいのは嫌いだと言ってマルクルの反応を直接尋ねてきたり、己の価値観――お金至上主義を公言して憚らなかったり、奥ゆかしさの欠片もない。仮にも貴族なのだから、社交辞令を上手に活用して自分をよく見せるべきだと思ったことも一度や二度じゃなかった。


(けれど)


 ロゼッタはライノアにはないものを持っている。幸せになりたいというあまりにもシンプルで純粋な欲を。そのためにありとあらゆる努力をしているし、不要なものを切り捨てる強さと勇気を持っている。誰にどう思われようと、自分はこうしたいという考えを持ち、言葉にすることができる人間はそういない。そのせいで誤解をされやすかったり、時には嫌われることもあるだろう。

 それでも、ロゼッタは自分を曲げなかった。幸せになりたいから――そのためにお金が必要だと信じているから。