「――いつもと雰囲気が違いますね」


 ロゼッタの声に従ってそう声をかけると、クロエは嬉しそうに目を細める。


「今日はライノア様とお出かけなので、気合を入れて準備をしちゃいました。どうでしょう? 似合ってます?」

「ええ、とても」


 清楚で上品な白いワンピースがクロエによく似合っている。ライノアが返事をすると、クロエは嬉しそうに笑った。


『ちょっと、それだけ? あなたのためにオシャレをしてきた女性を褒め称えるのに『ええ、とても』だけだなんて、ありえないでしょう? お化粧とか髪型とか、センスとか色合いとか、もっと色々あるでしょう?』


 この場にロゼッタはいないのに。それでも、ライノアにはロゼッタがどう言うのか――どう考えるかが手に取るようにわかる。ロゼッタの言うことが正しいと、ライノア自身もそう考えていた。

 けれど、目の前にいるクロエはライノアになにも求めない。明らかに足りない褒め言葉でも満足そうだし、笑って受け入れてくれる。

 それでいい――以前のライノアならそう考えただろう。
 足りない自分を受け入れてくれる人間と現状を維持しながら、それなりに楽しく暮らしていければいい。誰かに気に入られようとか、上を目指そうとか、そういったことは考えたことがなかった。