「あの、ライノア様……」


 声をかけかけたクロエだったが、ライノアの瞳がロゼッタをまっすぐに追いかけているのを見て、ぐっと手を引っ込める。


「ライノア様は――ロゼッタが好きなんですよね?」

「はい」


 一切の躊躇なく紡がれた返事に、クロエの瞳が静かに震える。


(やっぱり)


 薄々わかっていた。クロエの想いは叶う見込みはないのだと。
 けれど、もう少し……もう少しだけこの恋にしがみついていたい。


「ライノア様、私とデートしてくれませんか?」


 ライノアがゆっくりと顔を上げる。予想外の言葉だったらしい。きょとんとしたライノアの表情を笑いながら、クロエは身を乗り出した。


「してくれたら、ちゃんと諦めます。最後に思い出がほしいんです。そのぐらい、いいでしょう?」


 ライノアはしばらくの間考え込んでいたが、ややして「わかりました」と返事をする。クロエは「ありがとうございます」と微笑むのだった。