「顔と雰囲気? そんなものじゃお腹はふくれませんし、流行りのドレスも買えませんわ」

「え〜〜? でもでも、彼の顔を見つめていたら、一食分ぐらい食べなくても平気なぐらい幸せな気持ちになれそうじゃない?」

「そうかしら?」


 ロゼッタはライノアの顔を思い返しつつ、思わずムッとしてしまう。
 たしかに、顔はおそろしいほどに整っていた。体型もスラリとしていて美しく、仕事ができそうな雰囲気もあった。


「だけどあの方、ただの文官ですわよ? 父親は爵位すら持っていらっしゃらないし」


 ライノア・キーガンという男について、ロゼッタは興味がないなりに一応調べておいた。
 現在十九歳の文官で、現キーガン侯爵の甥っ子。ライノアの父親が爵位を持っていないのは、平民との恋愛結婚を選んだことが理由らしく、ロゼッタからすれば理解不能な行動だ。おそらくはライノア自身もロゼッタとはまったく合わないだろう。


「まあ、一応王太子付きではあるみたいですけど」

「え? そうなの?」

「ええ。このあいだセリーナ殿下のおつかいのときに執務室でお会いしましたから」


 ついでにそのときマルクルの反応を聞いたのだけど、なびいてくれそうな気配がないので黙っておく。