「ああ、ライノア様も来ているのね」


 どうやらマルクル・キーガンに無理やり連れてこられたらしい。ライノアははじめて会った夜のように、めんどくさそうな表情を浮かべながら会場に佇んでいた。


(相変わらずもったいない方ね)


 あれではせっかくの縁も逃げてしまう。せっかく顔がいいのに令嬢たちが近寄りがたい雰囲気が出ているし、ビジネスチャンスも逃してしまうだろう。もちろん、ライノアは文官で、自分で事業を行っているわけではないが、顔は広いに越したことがない。


「知り合い?」


 と、ウィルバートが尋ねてきた。ロゼッタは「ええ」とこたえてそっと微笑む。


「腐れ縁のような男性ですの。王太子殿下の補佐官をしていて、仕事で絡みがあるものですから」


 本当は夜会で出会ったのだが、そういった事情は知らないでいい。ウィルバートは「なるほどね」とつぶやき、ロゼッタに向かってそっと屈んだ。


「言い訳しに行かなくていいの?」

「なにをですの?」

「俺と一緒にいるとこ、彼に見られても問題ない?」

「まあ! もちろんですわ!」


 ロゼッタが唇をムッと尖らせる。すると、ウィルバートは嬉しそうに「冗談だよ」と笑った。

 とはいえ、もしもこの場にいたのがトゥバルトだったら、ロゼッタの対応は違っていただろう。ロゼッタは密かにホッとしてしまった。