「嬉しいよ、とても」


 ウィルバートがロゼッタの額に口付ける。真っ赤に染まったロゼッタをよそに、馬車はゆっくりと動きはじめた。


(ウィルバート様ったら)


 唇の触れた箇所が熱を帯びている。ロゼッタが胸に手を当てていると、ウィルバートが隣でクスリと笑った。


「隣国はどうだった?」

「え? ……ああ、毎日が新鮮でしたし、充実しておりましたわ」


 返事をしながら、ロゼッタはようやく平常心を取り戻していく。


「それはよかった。狭い世界に閉じこもっていると、見えないものがたくさんあるからね」

「なるほど……大変参考になりますわ。ウィルバート様はよく国外に行かれるのですか?」

「そうだね。国外というわけではないけど、仕事柄色んなところに行っているよ」


 ウィルバートが馬車の外を見ながらそうこたえる。何気ない仕草なのに、なんだか無性にかっこよく見えて、ロゼッタは思わず反対側を向いた。