「ご機嫌じゃない。いったい誰と会っていたの? 私の知らない人?」

「いいえ、ウィルバート・ヴァンズ様よ。街でばったり出会ったの」

「ウィルバート様!? いいなぁ〜〜それなら私もロゼッタと一緒に出かければよかった」


 クロエはそう言って、悔しげに目を細めている。

 ロゼッタより三つ年上のクロエは、男爵家出身の文官だ。その優秀さゆえ一年前に王女セリーナの文官に抜擢された。清楚な美人だが、身分や仕事の兼ね合いから婚期を逃してしまったため、ロゼッタとともに夜会に通って結婚相手を探している。

 ロゼッタとは違うタイプの美人であるクロエは、ロゼッタにとってよき相棒だ。仮に男性がロゼッタの美貌には興味を示さずとも、クロエがいれば大抵落ちる。金持ちの男性というのは、たとえロゼッタ自身のお相手候補とはならずとも、貴重な情報源には違いない。クロエもロゼッタと同様の考えのため、二人でタッグを組んでいるのだ。


「それでそれで? どうなったの?」

「豪華なディナーをごちそうになって、お屋敷に行ってもいいと言っていただいて、今後も一緒にご飯を食べようって誘っていただいたの!」

「わぁ〜〜いいなぁ! 玉の輿まであと少しじゃない!」


 なお、クロエの性格は見た目とは違って非常にサバサバしており、好奇心も旺盛だ。ロゼッタと対等に渡り合えるぐらいなのだから、さもありなんというところだが……。