(あら)


 と、王太子の執務室に向かう道すがら、ロゼッタはふと足を止めた。回廊の柱の側で目的の人物――ライノアを見つけたからだ。


「ライノア様……」


 と声をかけかけて、ロゼッタはやめた。ライノアの向かいに、誰かがいることに気づいたからだ。雰囲気からして取り込み中、というわけではなさそうだが、今声をかけるのは得策ではない。


(いったい誰とお話をしているのかしら?)


 ロゼッタがそっと様子をうかがう。すると、そこにいたのはクロエだった。


「ライノア様のお話って、本当にすごく面白いです」


 次いで、クスクスとクロエの楽しそうな声が聞こえてくる。ロゼッタは思わずドキッとしてしまった。