ロゼッタは目に見えないものは信用しない。心の拠り所になどしない。
 他人から見てどれだけ滑稽だろうと、愚かだろうとも、その価値観は絶対に譲れないのだ。


「それから、今はまだ、誰の手を取るか決めたわけではございません。そもそも、望んだところで相手がわたくしを選んでくださるとも限りませんし」


 クローヴィスがキュッと唇を引き結ぶ。ロゼッタはそっと目を和らげると、クローヴィスの両手を優しく握った。


「まったく、こんな女にのめり込んでしまうなんて、気の毒ですわね」

「自分でもそう思っている。けれど、それでも好きなのだから仕方がない」


 苦悩に満ちた表情のクローヴィスを見つめつつ、ロゼッタが笑う。それから「ありがとうございます」と伝え、ロゼッタはそっと目をつぶるのだった。