「好きなんだ、ロゼッタ嬢のことが」


 力強く抱きしめられて、ロゼッタは小さく息をつく。


「どうして?」


 問いかけても、クローヴィスは返事をしない。もしかしたら、自分でもよくわからないのだろうか? ロゼッタはクローヴィスの肩をポンと叩くと、少しだけ首を傾げる。


「自分で言うのもなんですが、わたくしなんてお金のことしか頭にない、顔だけの女ですわよ」

「そんなことない」


 すぐに駄々っ子のような口調で返事がかえってきたことに驚きつつ、ロゼッタはそっと目をつぶった。


「本当に。クローヴィス殿下ならご存知でしょう? わたくしがどれだけお金のことを愛しているかを」

「もちろん知っている。だから、ロゼッタ嬢は俺のことを愛してくれなくていい。俺のものはすべてロゼッタ嬢に差し出すから――ただ俺を拒絶しないでほしい。受け入れてほしい。……まだ他の男の手を取らないでほしい。お願いだから」


 それは、とても不思議な感覚だった。自分は間違いなくここにいるはずなのに、自分じゃない――まるで、どこか遠くから己を眺めているような気分だ。


(わたくしが欲しいのはお金だけ)


 それ以上でも以下でもない。
 けれど、本当にそれだけだっただろうか?