「ですから僕は、ライラ様の隣を歩くと決めました。王太女として、普通の女の子として、ライラ様には幸せになってほしいんです――僕が幸せにする。絶対、誰にも譲れないと思いました」

「そう……ですか」


 人の価値観は変わる。ロゼッタにもそれはわかっている。
 けれど、たとえばロゼッタが恋に落ち、お金よりも愛を取る――なんてことがあるのだろうか?


「さて、そろそろライラ様のもとに戻らないと。僕からライラ様の愛情を奪い取ろうとしている男が多くて、油断も隙もないんです」


 ふと見れば、初日にロゼッタを案内してくれたバルデマーという男性が、ライラの手を握っている。どうやらダンスに誘っているようだ。


「ロゼッタ嬢、どうか自分の気持に正直に。後悔のない選択をしてください」

「ええ。ありがとうございます」


 ランハートがまっすぐにライラのもとへと戻っていく。その表情はとても温かく、優しくて、ロゼッタの胸が小さく疼いた。


(恋愛感情を――愛されることを羨ましいと思うなんて……)


 違う、そんなことは思わない。あってはならないことだ。
 ロゼッタは小さく首を横に振り、夜会会場へと戻るのだった。