「さっきは大変だったね。あんなふうに絡まれて、面倒だっただろう?」

「え? えぇ……と」


 面倒、とはっきり口にするのは憚られる。相手が隣国の人間ならなおさらだ。


「気を使わなくていいよ。僕も君と同じタイプだから、わかるんだ」


 ランハートがそっと目を細める。ロゼッタは小さくうなずいた。


「傍から聞いていて中々に面白かったよ。『目に見えないものになんの価値がある』ってはっきり言い放つんだもん。……だけどそれって、真理だよね。ああいうタイプには一番効く言葉だと思う。あの女性も、さっきは君に向かって手を振り上げていたけど、多少は自分を見直すんじゃないかな?」

「そうだといいのですが」


 クローヴィスの侍女は今後も目に見えないものを必死に磨き、誰かに気づいてもらうことを願い続ける気がしないでもない。ロゼッタは苦笑を漏らした。