「そんなことをしたら、傷つくのは君のほうだ。美しい君自身のために、その手はおろしたほうがいい。違うかな?」

「あの……その……」


 男性はまっすぐに侍女を見つめ、優しく微笑んでいる。ロゼッタのほうは見向きもしない。


(この方、きっと何度も修羅場を経験しているわね)


 女性慣れしているというか、女心をわかっている感じがする。やがて、侍女は右手をそっとおろした。


「君が傷つかずに済んでよかった」


 男性は侍女の手の甲にそっと口付けると、ようやくロゼッタのほうをチラリと見る。


「わ、私、もう行きます。その……ありがとうございました」

「うん。夜会を楽しんでね」


 ロゼッタは侍女の後ろ姿を、男性と一緒に見送った。