【仕事のため、しばらく国を出ることになりました】


 しばらくといっても、行き帰りも含めてほんの二週間ほどのことなのだが、少しでもウィルバートの気を引きたくて、ロゼッタはそんなふうに手紙を書き進めていく。本当は【帰ってきたらまた会ってほしい】とか【わたくしを忘れないで】と書きたいとも思ったが、子どもっぽいと思われたくなくて、城を留守にすることだけを書くに留めた。

 手紙を書き終えると便箋を封筒に仕舞う。――が、ややしてロゼッタは再び便箋を取り出し、シュッと自身の香水を吹きかけた。


(ウィルバート様が少しでもわたくしを思い出してくれますように)


 念じること数秒。ロゼッタは今度こそしっかりと封をし、ウィルバートに届くよう手配をする。
 手紙を出し終えたその足で、ロゼッタは別の場所へ向かった。
 目的の場所に到着すると、護衛のため扉の前に立っている騎士へと声をかけ、取次を依頼する。しばらくしてから、お目当ての人物がひょこリと顔を出した。


「ごきげんよう、ライノア様」


 ロゼッタが声を掛けると、ライノアは怪訝な表情を浮かべつつ、彼の勤務先である王太子の執務室から出てくる。


「どういう風の吹き回しです?」

「そんな顔なさらないで。わたくしはただ、先日のお礼がしたかっただけです」


 ロゼッタはムッとしながら首を傾げると、ライノアの手を取り小さな小包を渡した。