一緒にいくつもの夜会を巡り、未来の旦那様探しをしてきたクロエが本気になった――ロゼッタはなんだか信じられない気持ちだった。


「――あのライノア様、家事はいつもどうなさってますの? 着替えや食事は?」

「見ての通り、狭い家ですからね。全部自分でやってますよ」

「ご自分で?」


 ロゼッタはあんぐり口を開けると、クロエに向かって『そんな生活でいいの?』と叫びたくなった。


「自分でできることを他人に任せるなんて、お金の無駄でしょう?」

「言いたいことはわかりますけれども、お仕事もなさっていますし、面倒じゃございませんか? 王太子殿下の文官って、そんなにお給料が安いんですの?」

「いいえ。人を雇える程度にはいただいてますし、実家から援助を受けられないわけでもありません。単純に僕の価値観の問題です」

「価値観……わたくしとは真逆ですわね」

「そうですね」


 ロゼッタは思わずライノアの顔をまじまじと見つめる。それからふふっと笑い声を漏らした。