(そうよね)


 嫌いな人間を瞳に映してしまったという事実は変わらないものの、ロゼッタの記憶から消去することはできるのだ。幸い、二人は遭遇せずに済んだのだし、ライノアの言うとおり忘れるのが一番だろう。


「でしたら、わたくしがあの男と会わずに済むよう、もう少しここで匿ってくださいます?」

「別に構いませんよ。……まあ、何もない家ですけど。一応、お茶ぐらいはお出しします」

「あっ! でしたら私! 私に淹れさせてください!」


 と、クロエが話に割り込んでくる。その表情はどこか切羽詰まっていて、ロゼッタは目を丸くした。


「ですが、お二人はお客様ですし」

「私たち、王女殿下の侍女ですから! お茶を淹れるのはものっすごく得意なんです。ロゼッタを助けていただいたお礼にぜひ、淹れさせてください」

(クロエったら、どうしたのかしら?)


 キッチンに向かう道すがら、クロエはロゼッタにアイコンタクトを送り、ニコリと微笑む。


「ポイント稼ぎたいの。結構本気だから」

「……!」


 クチパクでそう訴えられ、ロゼッタはますます目を見張る。