(クロエには申し訳ないことをしてしまいましたわ)


 ロゼッタは小さくため息を吐く。
 こんなふうに倒れてしまうなんて、自分でも想像していなかった。もしもクロエが、ライノアがいなかったら、どうなっていただろう? もしもあの男――父親と顔を合わせていたら――?


「大丈夫ですよ」

「「え?」」


 ロゼッタとクロエが同時に声を上げる。どうしてそう思うのか――ライノアは少しだけ間を置くと、落ち着いた声音でこう続けた。


「なにがあったかはわかりませんが、ロゼッタ嬢なら大丈夫でしょう。少し経ったらまた、大好きなお金のためにピンヒールで走り回っている――そんな気がします」

(なによそれ……)


 聞きながら、ロゼッタの瞳にじわりと涙がたまる。

 ロゼッタは本当はそんなに強くない。嫌なことがあれば普通に凹むし、もう立ち上がれないと思うこともしばしばだ。心のなかではしょっちゅう泣き言を言いたくなるし、疲れたと、嫌だと叫びたくなる日もたくさんある。

 それでも――