「あ――」

「大丈夫ですか?」


 涙のせいもあって視界が霞んでいるが、声から判断するに、それはライノアらしい。


「ライノア様! ロゼッタが……ロゼッタの様子がおかしいんです。体調が悪いんだろうけど、どういう状況なのかも聞き取れなくて。私、どうしたらいいんでしょう?」


 クロエがここぞとばかりにライノアに助けを求めている。


「まずはゆっくり休める場所に移ったほうがよさそうですね。……ロゼッタ嬢、自分で動けますか?」


 落ち着き払った声でライノアが尋ねてきた。が、ロゼッタは返事をすることすらままならない。そもそも、何を言われているかもよくわかっていないのだから、当然といえば当然なのだが。


「でしたら、少しだけ、我慢していただいてもいいですか?」

「……?」


 ふわり、とロゼッタの体が宙に浮く。クロエがきゃっ!と声を上げたのと、ライノアの顔が至近距離にある状況から、ロゼッタはようやく自分が彼に抱き上げられているのだと気付いた。