「え!?ちょっと、何か誤解してない?文字通り、何もなかったって言ってるんだよ!」
 そう言われて、ポカンとしてしまった。
「つーか⋯⋯逆に、何かあったと思ってた?さっき、鏡で自分の姿見てたのに」
 確かに、私は昨夜の服をそのまま着ている。
 勝手に色々と勘違いした自分を恥じていると、尚は可笑しそうにクスクス笑っている。
「俺は紳士ですから」
「ええ⋯⋯そうですこと」
 自ら過ちを犯そうとしたのに、朝になった今は、何もなかったという事実に安堵している。



 私たちは、去年の春に大学の入学式で知り合った。
 地方国立の理系で、同じ学部には女子が少ない。
 ゆえに、単に女子だというだけの理由でちやほやされるが、これが東京の私立大学の文系だったら、誰も私のことなど見向きもしなかっただろう。

 中学時代から、
「蘭はモテモテでいいよねー!誰かひとり分けてよ」
 友達はそんな冗談を言っていた。