〇夜・栞菜の部屋
机でノートを広げながらも、勉強に身が入らない栞菜。
スマホを手に取り、春馬の言葉を思い返す。
栞菜(私……どうしたらいいんだろう』
そこへ着信音。画面には「蓮」の文字。
慌てて電話に出る。
蓮『もしもし』
栞菜「もしもし、こんな時間に珍しいね。急な用事?」
蓮『大した用事じゃないけど、ちょって気になったことがあって』
栞菜「なに……?」
冷や汗をかく栞菜
蓮『今日誰と帰ってた?』
心臓がドキドキと高鳴る。
冷や汗かく栞菜。
栞菜「えっと……急にどうしたの?」
蓮『いや、今日栞菜の帰りが早かったみたいだから、誰かに一緒に帰らないか誘われたのかなって』
栞菜「いや、私が誰と帰っていようが蓮には関係ないじゃん」
無言が続く。
栞菜(反射的に酷いことを言ってしまった。正直に春馬くんと帰っていたと言えばいいのに。唇が震えて……うまく言えない)
蓮『そうだね。急におかしな質問してごめんね。もう夕食たべた?』
蓮からの質問に答えながら「どうして私が春馬くんと帰っていることがバレたんだろう……?」と疑問に思う栞菜。

〇昇降口・翌日
栞菜が靴箱の前で上履きを脱いでいると、春馬が駆け寄ってきた。
春馬「おーい、栞菜!」
栞菜「あ、春馬くん……」
春馬「ちょっと時間ある? 昨日のこと、ちゃんと話したいんだ」
栞菜「昨日の……」
頬がじわっと熱くなる。言葉に詰まり、うつむいた。
春馬「もしかして気分悪くさせちゃった……?」
栞菜「いや、なんでもないの。ただ……」
栞菜が春馬に返答しようとすると背後から連が近づいてくる。蓮は栞菜の片手をとった。
栞菜「うぇっ!」
驚く栞菜。
春馬「おはよう、栞菜」
栞菜「お、おはよう。あの、ちょっと待って……」
蓮「ほら、早く行かないと。今日は朝から委員会の集まりがあるんだから」
春馬「おい、ちょっと待てよ」
笑顔で栞菜の手を引く蓮。どんどん力強くなる。
無理やり蓮の手から逃れる栞菜。
蓮「栞菜、正直に答えて。昨日春馬となにがあったの?」
栞菜「な、なにもない! ただ一緒に帰っただけで……!」
蓮は焦る栞菜を様子をじっと観察し、口元にかすかな笑みを浮かべた。蓮は壁に腕を押し付けて、壁と蓮の間に栞菜が入る。
蓮「……下手な嘘」
栞菜「嘘なんかついてない!」
蓮は壁から手を離し、今度は栞菜の肩に軽く触れる。
蓮「僕はね……栞菜に他の男の影が見えるの、耐えられないんだ」
耳元で囁くように告げられ、栞菜は思わず息を呑んだ。
栞菜「……っ」
蓮「だから教えて。春馬のこと、どう思ってるの?」
栞菜「知らない。私にも分からないからっ!」
壁と蓮の間をするりと抜けて、教室へと向かった。

〇夕方・浜辺
制服姿、学校帰りの栞菜が海を見つめている。
背後から砂を踏む足音が近づいてきた。
振り返ると、そこに立っていたのは蓮だった。
蓮「あ、やっぱりここにいたんだ」
栞菜「……っ!」
慌てて立ち上がり、距離を取ろうとする。
蓮「どうして逃げるの?」
声は静か。だが瞳は熱を孕んでいる。
栞菜「だって……蓮と一緒にいたら……」
栞菜ナレーション『このまま私が蓮と一緒にいたら、蓮の邪魔になっちゃう』
言葉が続かない。視線を逸らし、蓮を背にして逃げさろうとする。その瞬間、背後から強い力で腕を掴まれた。
蓮が栞菜を後ろから抱きしめる。
栞菜「離してよ……」
蓮「やだ」
栞菜「どうして……?」
蓮「もう……どこにも行かないで」
低い囁きが耳に落ちる。
栞菜「や、やめて……!」
蓮「嫌だ。離さない」「昔は、僕だけを見てくれてたよね。困ったとき、泣きそうなとき、真っ先に僕を呼んでた」
栞菜「それは……子供の頃の話でしょ」
蓮「僕は今でもそうあって欲しいと願っているよ」「他の誰かと笑い合ってる栞菜なんて、見たくない。有象無象に向ける笑顔なんて、全部壊してやりたい」
執着の獣となった蓮の表情に王子様フェイスは残っていない。
栞菜「ダメだよ。いつまでも私に固執していたら。蓮には蓮の人生があるんだから」
蓮は栞菜の耳元に顔を寄せる。
蓮「いいんだ。これで」
れで」
栞菜のポケットの中でスマホが震える。
取り出すと画面には「母・千里」の文字が表示されている。
栞菜「あっ……お母さん……!」
必死にスマホを取り出そうとするが、蓮の腕がそれを押さえつける。
蓮「出なくていい」
栞菜「だ、だめ……! 出ないとお母さんに心配かけちゃうから!」
振り払おうと必死にもがく栞菜。
短い沈黙のあと、蓮はゆっくりと腕の力を緩めた。
蓮「まっ、いいか。どうせ帰るのは僕と一緒だし」
栞菜「え……?」
蓮「君を一人で帰らせるわけないでしょ」
淡々とした口調。だが瞳には執着の炎が揺らめいていた。
栞菜は電話に出る。
千里『栞菜? もう帰ってる? 今日も夕食お願いできる? 』
栞菜「あ、うん……今、帰ってるところ」
千里『あら、もしかして蓮くんも一緒かしら? この前も助かったと伝えておいてね』
栞菜「っ……!」
顔が熱くなる栞菜。ちらりと隣の蓮を見ると、彼は静かに口角を上げていた。
栞菜「うん、蓮もいるよ」
千里『じゃあ安心ね。8時頃には帰るから待っていてね』
通話が切れる。
蓮「やっぱり、栞菜を家まで送るのは僕の役目みたいだね。栞菜に変な虫がつかないように、悪い人に襲われないように守るのは僕の役目」「さ、帰ろう。お母さんが待ってる」
抵抗する隙も与えず、蓮が栞菜の腕を取って家へと向かった