唇を甘く食まれ、抵抗する前に角度を変えてうっとりとするようなキスを仕掛けられ、理性は彼に侵食されていく。

キスを繰り返しながら、庇ってくれた頭を愛しむように撫でる手が心地良く、彼の背に手を伸ばしたのは、認めたくない出来事だった。

しばらくしてキスを止めた彼は、唇の上でクスリと笑う。

「ドジだな…隙だらけだぞ」

口調は相変わらずなのに、その笑みは普段と違う。どちらかと言えば、無愛想で無表情の彼が、たまに私に見せる不機嫌顔、そして小馬鹿にした笑いや揶揄う時の意地の悪い笑み。今、私を見つめる目は愛おしいというか、言葉とは裏腹な優しい眼差しに胸の奥が、キュンキュンと音を立てていた。

あー、ダメだ。

胸が痛くて耐えられない。

その時、２人の間でバイブするスマホの音が彼の内ポケットで鳴り、スマホを取り出して画面を見た彼は、ポツリと呟いた。

「時間か…」

体にかかる体重が離れると同時に、温もりも冷めていくことに寂しく感じていたら、立ち上がった彼が私に手を差し伸べて立たせてくれる。

お互いに服の汚れを払った後の沈黙の気まずさに耐えられず、私は、そのまま黙って物置部屋を出たのだった。