「いて…、思いきり叩くことないだろ」

「叩かれることするからです」

「キスしたくなったんだから仕方ないだろ」

「……揶揄う為にキスするなんて…ひどいです」

ポロポロと泣き出した私は、なぜ自分が泣いているのかわからないまま彼を置き去りにして、マンションの中にかけていった。

どうして、キスしてきたの?

向井さんの冷たい唇の感触が、いつまで経っても生々しく残っている。

そして、手には彼の頬を叩いた感触がいまだに残っている気がする。

考えても考えても、揶揄われたとしか思えなくて…
それが悲しくて…
モヤモヤとしたものが消えなくて…
忘れたくても忘れられなくて…

数日経っても、あの日のキスは、私を悩ませている。

しばらく彼に会うこともなく、平穏な日々を過ごしているのに、営業部の前を通る度に、無意識に彼を探してしまう。

その度に、彼を見つけてどうしたいの?と自問するのだが、揶揄われた文句を言ってやるんだと…言い訳をしては、心がチクリとして痛い。

蒸し返しても、きっと、彼にとってあの日のキスに意味なんてないというのに…

思い出しては、モヤモヤとしたものが溜まっていくばかりで、この訳のわからない感情を持て余す日々が続いていた。