「はぁっ?ここは、向井さんといるとドキドキしますとか言う場面だろ…」
しばらくの沈黙の後、私は、大笑いした。
「くっ、あはは、あは…あーお腹痛い。じ、自分で言います?そんな雰囲気ありました?もう、お腹よじれる」
あはははと、まだ笑いが止まらない私の腕を引っ張った向井さんの腕の中にとらわれた。
急な事に、笑いも止まる。
「あの、向井、さん?」
私を見つめる艶めいた眼差しに、私の心臓は、ドキドキと加速しだす。
「これなら、ドキドキしないか?」
「あ、あの…」
私の頬を撫でる彼の手によって熱い頬が更に熱をもって、熱くなってる気がする。
「……からかってます?」
「からかってるようにみえるか?」
「わ、わからない、です。とにかく、離してください」
「いやだ」
「いやて…なんで?」
「わからない?」
「わから…」
突然、唇に重なる冷たい唇に、パニックになる。
向井さんの腕の中から、離れようとしても、腕を掴まれて離れられないまま、重なる唇が、角度を変えて何度も唇を甘く啄んでいく彼の表情を、見ているしかできない。
そして、唇が離れたと同時に腕を掴んでいた手が緩んだ。
「パチン」
その瞬間、緩んだ手を振り払い、私は彼の頬を叩いていた。


![(続編)ありきたりな恋の話ですが、忘れられない恋です[出産・育児編]](https://www.no-ichigo.jp/img/book-cover/1631187-thumb.jpg?t=20210301223334)
