そして、次々と頼んだ品がテーブルの上に並んでいくのに、機嫌の悪い向井さんは、見向きもしない。
「ほら、飲みにきたんでしょ?じゃんじゃん飲んでください」
「ハァ‥お前といると、自信を失うよ」
「よくわからないんですけど…タコわさあげますから、元気出してください」
「…塩辛がいい」
「あっ」
呆れた表情の後、諦めたように私の大好きな塩辛を奪っていったのだった。
そして、なんだかんだと雑談しながら、彼は結構な量を飲んだと思うのに、平気そうに歩いている。
「あー飲んだ、飲んだ」
「お酒強いんですね。私、あまり飲めないから、飲んでも変わらない人って羨ましいです」
「お前、ビール二杯しか飲んでないのに顔が赤いものな」
「言わないでください。だから、あまり飲めないんです」
「ゆでだこ」
「うるさいです。一杯が限界なのに、向井さんといると…」
「なんだよ?」
調子が狂うせいなんて言えないので、ごまかした。
「なんでもないです」
マンションも、もうすぐそこと言う時、隣で並んで歩いていた人が、急に立ち止まって私の腕を掴んだ。
「何か言いかけただろ?途中で止められると気になるから言えよ。俺といるとなんなんだ?」
「えっ…忘れました」


![(続編)ありきたりな恋の話ですが、忘れられない恋です[出産・育児編]](https://www.no-ichigo.jp/img/book-cover/1631187-thumb.jpg?t=20210301223334)
