90秒で始まる恋〜彼と彼女の攻防戦


そして、次々と頼んだ品がテーブルの上に並んでいくのに、機嫌の悪い向井さんは、見向きもしない。

「ほら、飲みにきたんでしょ?じゃんじゃん飲んでください」

「ハァ‥お前といると、自信を失うよ」

「よくわからないんですけど…タコわさあげますから、元気出してください」

「…塩辛がいい」

「あっ」

呆れた表情の後、諦めたように私の大好きな塩辛を奪っていったのだった。

そして、なんだかんだと雑談しながら、彼は結構な量を飲んだと思うのに、平気そうに歩いている。

「あー飲んだ、飲んだ」

「お酒強いんですね。私、あまり飲めないから、飲んでも変わらない人って羨ましいです」

「お前、ビール二杯しか飲んでないのに顔が赤いものな」

「言わないでください。だから、あまり飲めないんです」

「ゆでだこ」

「うるさいです。一杯が限界なのに、向井さんといると…」

「なんだよ?」

調子が狂うせいなんて言えないので、ごまかした。

「なんでもないです」

マンションも、もうすぐそこと言う時、隣で並んで歩いていた人が、急に立ち止まって私の腕を掴んだ。

「何か言いかけただろ?途中で止められると気になるから言えよ。俺といるとなんなんだ?」

「えっ…忘れました」