「まぁ、あわよくば、なぁなぁにして忘れて終わればぐらいには…」
キッと睨まれてしまった。
「お前なら、そうだろうと思ったから、こうして誘ったんだよ。終わらせてたまるかよ」
「珍味でよかったのに」
ボソッと出た言葉に、彼は、無表情に聞き返してきた。
「何か言ったか?」
「いーえ、向井さんの奢りですよね?」
「当たり前だ。男の顔も立てること覚えろよ」
ペシっと、おでこを割り箸で叩かれた。
「じゃあ、遠慮なく。後で文句言わないでくださいよ」
ホッケの塩焼き、エイヒレ、タコわさ、タコの足の唐揚げ、塩辛、ししゃも、と、とりあえず目についたメニューと、お代わりのビールを店員さんに頼んだ。
「…ほんとにつまみばかり頼むなんてな」
「すみませんね。卵焼きとかエビマヨとかサラダとか女性が頼みそうなものじゃなくて…今度、飲みたくなったら他の人を誘ってください」
「お前じゃなきゃ、誘わねーよ」
予想もしていない彼の言葉に、自分の耳を疑い聞き返していた。
「あの…なんて言いました?」
「…なんでもねーよ」
不機嫌に、プイッと顔を逸らした彼は、手に持っていたビールを飲むだけで、しばらく2人の間に沈黙が続いた。


![(続編)ありきたりな恋の話ですが、忘れられない恋です[出産・育児編]](https://www.no-ichigo.jp/img/book-cover/1631187-thumb.jpg?t=20210301223334)
