『ごちそうさまでした』と手を合わせて満足顔で笑う。
「また、作ってくれよ」
その笑顔に、胸の奥がキュンとしたのは…ときめいたからじゃない。
料理を褒めてもらえたからだ。だから、嬉しくてお皿を回収して、キッチンを借りて鍋やタッパなどを次々と洗っていく。
「ごちそうになったうえに、洗ってもらって悪いな…」
洗い物を終えて、玄関に向かう。
「いいえ、鍋を持って帰りたかったので、ついでです。あっ、待ってきたビールは、昨日の買い物代と重い荷物を持ってくれたお礼です。飲んでください」
「そんなのよかったのに…律儀だね」
くすりと笑う向井さんと玄関に立つ。
「仮を作りたくないだけです」
彼の笑いのツボをまた押したらしく、あはははと笑う。
「ほんと、お前って面白いわ」
「面白くないと思いますけど」
「いや…ますます気に入った」
「申し訳ないんですけど、私、向井さんの事、苦手です」
「それで?」
彼は、艶めいた目で私の絆創膏の貼ってある手を掴んだ。
「苦手なんです」
「だから…」
手を引きたくても、手首を掴まれていてはどうにもできずにいた。
「ケガしてまで俺のお願い聞いてカレー作ってくれたくせに」


![(続編)ありきたりな恋の話ですが、忘れられない恋です[出産・育児編]](https://www.no-ichigo.jp/img/book-cover/1631187-thumb.jpg?t=20210301223334)
