90秒で始まる恋〜彼と彼女の攻防戦



『ごちそうさまでした』と手を合わせて満足顔で笑う。

「また、作ってくれよ」

その笑顔に、胸の奥がキュンとしたのは…ときめいたからじゃない。

料理を褒めてもらえたからだ。だから、嬉しくてお皿を回収して、キッチンを借りて鍋やタッパなどを次々と洗っていく。

「ごちそうになったうえに、洗ってもらって悪いな…」

洗い物を終えて、玄関に向かう。

「いいえ、鍋を持って帰りたかったので、ついでです。あっ、待ってきたビールは、昨日の買い物代と重い荷物を持ってくれたお礼です。飲んでください」

「そんなのよかったのに…律儀だね」

くすりと笑う向井さんと玄関に立つ。

「仮を作りたくないだけです」

彼の笑いのツボをまた押したらしく、あはははと笑う。

「ほんと、お前って面白いわ」

「面白くないと思いますけど」

「いや…ますます気に入った」

「申し訳ないんですけど、私、向井さんの事、苦手です」

「それで?」

彼は、艶めいた目で私の絆創膏の貼ってある手を掴んだ。

「苦手なんです」

「だから…」

手を引きたくても、手首を掴まれていてはどうにもできずにいた。

「ケガしてまで俺のお願い聞いてカレー作ってくれたくせに」