「向井さんの分だけですけど」
「十代じゃあるまいし、二合なんて食えん。お前、半分は食べろよ」
「私の分は、別にあるんですけど。それに今日、カレーの気分じゃなくなってたのを、向井さんが食べたいって言うからわざわざ作ったのに、家帰ってもカレーなんて嫌です」
「俺は、ついでじゃなかったのか?」
なんだか嬉しそうにこちらに流し目を流されて、どきりとしてしまった。
「そ、そうです。ついでです。男の人の食べる量がわからなくて、沢山作ったので多めに持ってきたんです」
「男いなかったのか?」
「…前はいましたけど。ご飯を作ってあげたことがないので、量の加減がわからなくてすみません」
「そんなことはいい。それより彼氏がほしいと思わないのか?」
「辛い思いをしたので、一人でいる方が気が楽なんです。今は、どんな人でも、恋愛対象に見えません」
「いないならいい」
「何がですか?」
「いや、気にするな。ほら、食べようぜ…うまそうだろ」
「作ったのは、私ですけど」
「なら、味は保証済なんだろ」
「市販のルーなので、不味くはないと思います」
美味い、美味いといい、彼はあっという間に全ての量をペロリと食べてくれた。


![(続編)ありきたりな恋の話ですが、忘れられない恋です[出産・育児編]](https://www.no-ichigo.jp/img/book-cover/1631187-thumb.jpg?t=20210301223334)
