90秒で始まる恋〜彼と彼女の攻防戦


「向井さんの分だけですけど」

「十代じゃあるまいし、二合なんて食えん。お前、半分は食べろよ」

「私の分は、別にあるんですけど。それに今日、カレーの気分じゃなくなってたのを、向井さんが食べたいって言うからわざわざ作ったのに、家帰ってもカレーなんて嫌です」

「俺は、ついでじゃなかったのか?」

なんだか嬉しそうにこちらに流し目を流されて、どきりとしてしまった。

「そ、そうです。ついでです。男の人の食べる量がわからなくて、沢山作ったので多めに持ってきたんです」

「男いなかったのか?」

「…前はいましたけど。ご飯を作ってあげたことがないので、量の加減がわからなくてすみません」

「そんなことはいい。それより彼氏がほしいと思わないのか?」

「辛い思いをしたので、一人でいる方が気が楽なんです。今は、どんな人でも、恋愛対象に見えません」

「いないならいい」

「何がですか?」

「いや、気にするな。ほら、食べようぜ…うまそうだろ」

「作ったのは、私ですけど」

「なら、味は保証済なんだろ」

「市販のルーなので、不味くはないと思います」

美味い、美味いといい、彼はあっという間に全ての量をペロリと食べてくれた。