90秒で始まる恋〜彼と彼女の攻防戦

ジーと睨むように見つめると、両手を合わせて謝っているので、まぁ、許してもいいかななんて思っていたら

「でもな、マスクしてて、昨日と印象がガラッと変わってるお前が悪い」

「私が悪いんですか?」

納得いかなくて、鍋を彼に渡して帰ろうと突き出したら、その手首を握られた。

「指…切ったのか?」

「あー、ちょっとだけです」

彼の心配顔に、ムカつきも消えていく。

「ちょっとって、まだ血が滲んでる。深く切ったんじゃないのか?」

「ちょっとジンジンするぐらいなので、薄皮2、3枚ってとこです」

「それでも痛いだろ。ケガしてまで俺の為に」

「私のついでに作ったお裾分けです。向井さんの為に作ったわけじゃないので、間違えないでください」

一瞬の間の後、彼は大笑いする。

「ほんと、お前って俺のツボを押すのうまいよな」

あーおかしいと、また笑っていた。

「それはどうも…楽しんで頂けたなら、そろそろこの重い荷物と鍋をいい加減持ってくれませんか?」

「悪い悪い…」

そう言って、受け取ってくれた彼。

「味は保証しませんから…不味かったとか辛かったとか文句を言いにこないでくださいよ」

「帰るのか?」

「えっ?」