そこで悩んだ末、当たり障りのないパーカーにジーンズをチョイスしたが、スッピン顔が悩ましい。
結局、眉だけ描いて顔を隠すようにマスクをして、ボサ頭は、ブラシでといて肩下まである髪は、軽くお団子にした。
これぐらいなら、女として終わってると思われないだろうし、気があると思われないだろう。
納得いく格好で、キッチンへ戻った私は、自分の分を取り分けした後、ご飯を大きめのタッパに入れ、ビールの6缶パックと一緒にビニール袋に入れる。
右手に重いビニール袋、左手に鍋を抱えた私は、彼の部屋に向かった。
彼の住む601号室のインターホンを押すと、しばらくして彼がでた。
「はい」
「桃寺です」
痛い思いをして作ったのに、反応がなく、苛立つ話し方になるのは致し方ないと思う。
「カレーを作って来たんですけど、いらないなら帰ります」
ドアに背を向け数歩歩いたら、背後でガチャッとドアが開く音がした時、なぜだか私は、ニヤッと笑っていた。
「待てよ」
「なんですか?」
怒り顔を作り振り返って見上げた。
「悪い、俺の予定では夕方ぐらいだと思ってたから、昼ご飯に間に合うように持ってきてもらえるなんて思ってなかったんだよ」


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