90秒で始まる恋〜彼と彼女の攻防戦


呼び止めたくせに用事がないならと、私は彼を置いて歩き出した。

その後をついて歩いてくる向井さん。

同じマンションに住んでいるので、ついてくるなと言えない事にムカムカしてきて、どこか寄って帰ろうと考えた私は、週末の食料でも買って帰る事にし、マンション近くの深夜まで営業しているスーパーに寄った。

だが、彼はマンションに向かわず同じスーパーにいて…なぜかカートを押す私の隣にいる。

「あの…ストーカーですか?」

「そんなわけないだろう…」

「…私、野菜コーナーから買い物するので、向井さんは、お先にどーぞ行ってください」

「俺も、野菜コーナーから買い物するつもりでいる」

はぁっ?

あーもう、無視だ無視、無視…
この人と会話にならない。

私は、明日のメニューにカレーを考え、ジャガイモ、人参、玉ねぎといれ、精肉コーナーへ。
隣に立った向井さんが、カゴの中を覗いてふーんと頷いた。

「カレー作るのか?」

「そうですけど」

「最近、カレーって食べてないな」

だから?

「そうなんですか…」

無視を決め込むはずが、つい答えてしまっている。

「ブロックの豚肉、美味いよな」

「私は、挽肉派です」