下校時間。家に向かって歩いていると。


 ドンッ!!
 

「きゃっ!」
「いて!」

 曲がり角から急に人が飛び出してきて、俺は避けきれずにその人とぶつかってしまった。俺は足を踏ん張って、地面に倒れることはなかったが、ぶつかってきた相手の女性は、尻餅をついてしまった。

「あの!大丈夫ですか?」

 俺は慌ててその女性に駆け寄り、その人に声をかけると。

「はい、大丈夫です」

 地べたに尻餅ついた状態でお尻をさすりながら、俺の方に顔を上げた女性は…少し涙目をしていて、その涙で濡れた瞳が綺麗…というか、その人自身が綺麗で。
 俺はその人を見た瞬間、心臓が一瞬止まった気がした…と思ったら、ドキドキと激しく鼓動し始めた。

 え…何これ?え?え?

 俺がぽーっと、その人を見ていると。

「あの~…お兄さんは大丈夫?」

 その女性の声で、俺ははっと我に返った。

「あ、俺は大丈夫です!おっ、お姉さんは怪我してませんか…って、手のひらから血が出てますよ!」
「このくらい、大丈夫だよ」
「いやでも、傷口からバイ菌とか入ったら大変ですし、そこの公園で傷口の砂とか洗い流して…俺、絆創膏持ってるんで貼りましょう!」

 俺がそう言うと、女性は「…わかった」と頷いた。



「─はい、これで大丈夫です」

 公園に行くと、傷口を水道で洗い流してもらい、俺の持っていたハンカチで手の水気を取ると、絆創膏を貼った。

「…ありがとう。お兄さん優しいね」

 笑顔でそう、女性は俺に微笑んだ。

 …お姉さんは大学生くらいかな?背は170以上あるかも…俺より身長あるみたいだし。モデルみたいで、トレンチコートもめちゃ似合ってて…綺麗な大人な女性(ひと)


 俺なんかには、釣り合わないのはわかってる…けど。


「あの…俺、一目見てお姉さんのことが好きになりました!俺と付き合ってください!」

 俺が告白すると、お姉さんは頬を赤く染めておどおどすると。

「…うん、いいよ」
「そうですよね…フラれて当然ですよね─って、え?」

 てっきり、フラれたと思った俺は、お姉さんの方を見た。

「お兄さん優しいから、舞も好きになったよ」
「ほほ、ほんとですか?」

 そう聴くと、お姉さんはこくり。

「やったーー!」

 俺は嬉しくて叫んだ。

「あ!今日はピアノのお稽古があって急いでたんだ!また明日ここで会える?」
「はい!いつでもお待ちいたします!」
「じゃあ明日16時ごろに」

 そう言って、笑顔で手を振り去るお姉さん。


 お姉さんの背中で、赤いランドセルが揺れていた。




「…え?」