「水泳、得意なの?」
「ええ。小学校の時、全国大会にも行ったんですよ」

「えっ、すごい!」
「ウチの家系、スポーツに強いみたいで……。従兄弟(いとこ)が甲子園に行ったり、叔母がオリンピックに出たりしてます」
「スポーツマン家系なのね……」

 私はハッと思い当たった。

「その話、面接でした?」
「えっ、はい……」
「そりゃあ、受かるはずだわ……」

 何を隠そう、イチイグループの創業者も有名なスポーツ選手だったらしい。
 なので運動部の経歴がある人が有利だと、もっぱらの噂だ。
 彼のように一族全員がスポーツマンというのは理想だろう。

田中(たなか)さん……」
「え?」

 蓮見(はすみ)くんが何か言いたげにこちらを見ている。

「どうしたの?」
「いえ、なんでもないです」

 蓮見くんがにこりと笑う。

「じゃあ、今日はちょっと水に顔をつけてみましょう」
「えっ、ちょっと早いよ! まだ怖い!」

 私が震え上がると蓮見くんが声を上げて笑った。

「了解です。じゃあ、ビート板を使って浮く練習をしてみましょう。これなら顔を水につけなくて済むので」

 蓮見くんの優しい言葉に、私は胸をなで下ろした。