椿「いっ今、ここでか?」
※椿、ごくりと唾を飲む。
愁夜「まっ……まさかっ!
さすがにここではまずいでしょう。
場所を移そうか」
◇◇◇場面転換
ハンバーガーショップの駐車場に停めてある
場違いな高級車の中◇◇◇
※後部座席で愁夜の横に座る椿、
ひたすら脂汗をかいている。
愁夜「それで? 運転手の坂下に
この店でお茶して来いと命じてから
間もなく1時間が
経とうとしているんですけど?」
※愁夜、椿とは対象的に
涼しい顔をして、腕時計に目をやる。
愁夜「まだ決心がつかない?」
椿「あの……いや、うん……どうだろう……」
※椿、複雑な表情を浮かべて、
やっぱりひたすら脂汗をかいている。
愁夜「別にそんなに構える必要
ないんじゃないの?
キスのひとつくらいで。
そもそもファーストキスは
経験済なわけだし」
※椿、愁夜の言葉に激しく赤面する。
椿「あっ……あれは、
俺の中ではカウントしないことにしている。
ガキの頃の話だし」
愁夜「ふ〜ん、そうなんだ」
※愁夜、気に入らない様子。
椿「そもそも、あの頃と今とじゃ
行為の意味も重さも、ぜんぜん違うだろ」
愁夜モノ(愁夜白目):
当方、何一つ変わっておりませんが、何か?
椿「そもそも『キスのひとつくらい』って、
てめぇのその発言がすべてを物語っているよな。
くっそ軽い。
どんだけ女と遊んでんだよ」
※愁夜、クスリと余裕の笑みを浮かべる。
愁夜「さあ、どうだろう?」
愁夜モノ(愁夜白目)
:当方、そのような事実は
一っっっ切ございません。
10年前のあの日から、
貴女への想いは100%純愛です。
ちなみに当方の貴女への想いは、
シロナガスクジラより重いぞ?
確実に胸焼けするレベルからな!
覚悟しとけよ、コノヤロー。
椿「はぁ〜」
※椿ため息を吐く。
椿「俺が藤堂の娘で、藤堂とお前ん家が
ビジネスパートナーだっつうことは、
ちゃんと理解している。
その上でお前が俺に温情をかけてくれたことは、
すげぇ感謝してる。
だけど誠意の証として、キスをするっていうのは
なんかちょっと違う気がするんだ」
椿モノ:こいつは間もなく
この世界の本当のヒロインである
高山葉月に出会うだろう。
※椿、一瞬ふっと寂しげな表情を浮かべるが、
それを払拭して微笑む。
椿「お前はさぁ、今は愛する人もいなくって、
すごく荒れた生活をしているのだろうけど、
それでも俺は、『キス』っていうのは
やっぱりその人を愛するっていう
意思表示なのだと思うから、
お前が心から好きだと思う人とちゃんと
そうなればいいなって思うんだ」
愁夜「本当にそう思うか?」
椿「えっ? あっ、うん」
※愁夜、椿に迫る。
愁夜「本当の本当にそう思うんだな!」
※椿、愁夜が迫った分だけ引く。
椿「いや、まあ……うん」
愁夜「なら、覚悟を決めろ! 藤堂椿」
椿「えっ? なんの覚悟?」
※じりじりと椿に迫る愁夜、
椿、追い詰められて絶対絶命のピンチ。
椿「ひっ……」
※怯える椿、涙目。
※刹那、車内にガチャッという音が響き、
運転席のドアが開く、
運転手の坂下「愁夜さま。
ご命令の1時間が経過いたしましたので、
ただいま戻りました」
※坂下、律儀に愁夜に一礼する。
愁夜「……」
※愁夜、椿から身体を離し、
複雑な表情を浮かべる。
椿「た……助かった〜」
※椿、へたり込む。
椿「あれ?」
※椿、体の異変に気づき、
クイクイと愁夜の制服の袖を引っ張る。
愁夜「うん? どうした?」
椿「どうしよう……腰が抜けちまった。
足に力が入らない」
※椿、涙目。
愁夜「ぷっ……(愁夜、笑いを忍ばせる)
見た目によらず、意外とビビリなんだな」
椿「うっうるさいな!
いきなりだったから
ちょっとびっくりしただけだろ!
っていうかあんな状況で
お前に迫られたら誰だって……」
愁夜「坂下、今から藤堂のご両親に挨拶に行くから、
手土産を用意してきてくれる?」
坂下「ですが愁夜さまはどうなさいます?
この車でお送りしてから……」
愁夜「いや、いい」
※愁夜、車から降りて椿の前でしゃがむ。
愁夜「ほら、背負ってやるよ」
椿「◯×△???」
愁夜「なんでそんな
地球外生命体を見るような眼差しで僕を見るかな?」
椿「いやっ、ちょっ……」
※椿、愁夜の申し出にテンパる。
愁夜「坂下、行け!」
※愁夜、瞳孔の開いた目で、坂下に命令する。
坂下「はっ!」
※走り去る車。
愁夜「ほ〜ら、来い来い」
※愁夜、自身の背中を椿に差し出す。
椿「うぐっ……」
※椿、尚も躊躇い中。
愁夜「お姫様抱っことどっちがいい?」
※椿、速攻で愁夜の背中におぶさる。
椿「こちらでお願いします」
愁夜「わかればよろしい」
※愁夜、立ち上がり椿を背負って歩き出す。
椿「なぁ……なあ、すぐそことはいえ、
やっぱり家に電話して誰かに来てもらうから、
降ろせよ。
お前めっちゃ震えて
生まれたてのバンビみたいになってるぞ?
プルプルしてるぞ? 無理するな」
愁夜「……」
椿「俺、こう見えてけっこう食べるから、
絶対重いって」
愁夜「体重云々の問題じゃなから……
気にしないで」
愁夜モノ(愁夜白目)
:男はなぁ、死ぬほど惚れてる女を背負ったら
みんなこうなっちまうんだよ!
生まれたってのバンビになっちまうんだよ!
プルプルしちまうんだよ!
コンチクショーーーー!!
椿「なんでお前はそんなしんどい目をして
わざわざ俺を背負うんだ?
俺への嫌がらせか? 罰ゲームなのか?」
※椿、愁夜の背中で、盛大にテンパっている。
※愁夜、笑いを忍ばせる。
愁夜「それもあるけど……意地かな」
椿「意地?」
愁夜「君の彼氏としての意地。
なあに、君に日陰の愛人を強いられ、
キスを拒まれた哀れな男のただのプライドだ。
それでも僕は君の彼氏なのだと必死に言い聞かせてる」
愁夜モノ:背中で君が泣いている。
小さく肩を震わせて、
何度も『ごめんなさい』と呟いては
僕の背中を濡らしていく。
※椿、ごくりと唾を飲む。
愁夜「まっ……まさかっ!
さすがにここではまずいでしょう。
場所を移そうか」
◇◇◇場面転換
ハンバーガーショップの駐車場に停めてある
場違いな高級車の中◇◇◇
※後部座席で愁夜の横に座る椿、
ひたすら脂汗をかいている。
愁夜「それで? 運転手の坂下に
この店でお茶して来いと命じてから
間もなく1時間が
経とうとしているんですけど?」
※愁夜、椿とは対象的に
涼しい顔をして、腕時計に目をやる。
愁夜「まだ決心がつかない?」
椿「あの……いや、うん……どうだろう……」
※椿、複雑な表情を浮かべて、
やっぱりひたすら脂汗をかいている。
愁夜「別にそんなに構える必要
ないんじゃないの?
キスのひとつくらいで。
そもそもファーストキスは
経験済なわけだし」
※椿、愁夜の言葉に激しく赤面する。
椿「あっ……あれは、
俺の中ではカウントしないことにしている。
ガキの頃の話だし」
愁夜「ふ〜ん、そうなんだ」
※愁夜、気に入らない様子。
椿「そもそも、あの頃と今とじゃ
行為の意味も重さも、ぜんぜん違うだろ」
愁夜モノ(愁夜白目):
当方、何一つ変わっておりませんが、何か?
椿「そもそも『キスのひとつくらい』って、
てめぇのその発言がすべてを物語っているよな。
くっそ軽い。
どんだけ女と遊んでんだよ」
※愁夜、クスリと余裕の笑みを浮かべる。
愁夜「さあ、どうだろう?」
愁夜モノ(愁夜白目)
:当方、そのような事実は
一っっっ切ございません。
10年前のあの日から、
貴女への想いは100%純愛です。
ちなみに当方の貴女への想いは、
シロナガスクジラより重いぞ?
確実に胸焼けするレベルからな!
覚悟しとけよ、コノヤロー。
椿「はぁ〜」
※椿ため息を吐く。
椿「俺が藤堂の娘で、藤堂とお前ん家が
ビジネスパートナーだっつうことは、
ちゃんと理解している。
その上でお前が俺に温情をかけてくれたことは、
すげぇ感謝してる。
だけど誠意の証として、キスをするっていうのは
なんかちょっと違う気がするんだ」
椿モノ:こいつは間もなく
この世界の本当のヒロインである
高山葉月に出会うだろう。
※椿、一瞬ふっと寂しげな表情を浮かべるが、
それを払拭して微笑む。
椿「お前はさぁ、今は愛する人もいなくって、
すごく荒れた生活をしているのだろうけど、
それでも俺は、『キス』っていうのは
やっぱりその人を愛するっていう
意思表示なのだと思うから、
お前が心から好きだと思う人とちゃんと
そうなればいいなって思うんだ」
愁夜「本当にそう思うか?」
椿「えっ? あっ、うん」
※愁夜、椿に迫る。
愁夜「本当の本当にそう思うんだな!」
※椿、愁夜が迫った分だけ引く。
椿「いや、まあ……うん」
愁夜「なら、覚悟を決めろ! 藤堂椿」
椿「えっ? なんの覚悟?」
※じりじりと椿に迫る愁夜、
椿、追い詰められて絶対絶命のピンチ。
椿「ひっ……」
※怯える椿、涙目。
※刹那、車内にガチャッという音が響き、
運転席のドアが開く、
運転手の坂下「愁夜さま。
ご命令の1時間が経過いたしましたので、
ただいま戻りました」
※坂下、律儀に愁夜に一礼する。
愁夜「……」
※愁夜、椿から身体を離し、
複雑な表情を浮かべる。
椿「た……助かった〜」
※椿、へたり込む。
椿「あれ?」
※椿、体の異変に気づき、
クイクイと愁夜の制服の袖を引っ張る。
愁夜「うん? どうした?」
椿「どうしよう……腰が抜けちまった。
足に力が入らない」
※椿、涙目。
愁夜「ぷっ……(愁夜、笑いを忍ばせる)
見た目によらず、意外とビビリなんだな」
椿「うっうるさいな!
いきなりだったから
ちょっとびっくりしただけだろ!
っていうかあんな状況で
お前に迫られたら誰だって……」
愁夜「坂下、今から藤堂のご両親に挨拶に行くから、
手土産を用意してきてくれる?」
坂下「ですが愁夜さまはどうなさいます?
この車でお送りしてから……」
愁夜「いや、いい」
※愁夜、車から降りて椿の前でしゃがむ。
愁夜「ほら、背負ってやるよ」
椿「◯×△???」
愁夜「なんでそんな
地球外生命体を見るような眼差しで僕を見るかな?」
椿「いやっ、ちょっ……」
※椿、愁夜の申し出にテンパる。
愁夜「坂下、行け!」
※愁夜、瞳孔の開いた目で、坂下に命令する。
坂下「はっ!」
※走り去る車。
愁夜「ほ〜ら、来い来い」
※愁夜、自身の背中を椿に差し出す。
椿「うぐっ……」
※椿、尚も躊躇い中。
愁夜「お姫様抱っことどっちがいい?」
※椿、速攻で愁夜の背中におぶさる。
椿「こちらでお願いします」
愁夜「わかればよろしい」
※愁夜、立ち上がり椿を背負って歩き出す。
椿「なぁ……なあ、すぐそことはいえ、
やっぱり家に電話して誰かに来てもらうから、
降ろせよ。
お前めっちゃ震えて
生まれたてのバンビみたいになってるぞ?
プルプルしてるぞ? 無理するな」
愁夜「……」
椿「俺、こう見えてけっこう食べるから、
絶対重いって」
愁夜「体重云々の問題じゃなから……
気にしないで」
愁夜モノ(愁夜白目)
:男はなぁ、死ぬほど惚れてる女を背負ったら
みんなこうなっちまうんだよ!
生まれたってのバンビになっちまうんだよ!
プルプルしちまうんだよ!
コンチクショーーーー!!
椿「なんでお前はそんなしんどい目をして
わざわざ俺を背負うんだ?
俺への嫌がらせか? 罰ゲームなのか?」
※椿、愁夜の背中で、盛大にテンパっている。
※愁夜、笑いを忍ばせる。
愁夜「それもあるけど……意地かな」
椿「意地?」
愁夜「君の彼氏としての意地。
なあに、君に日陰の愛人を強いられ、
キスを拒まれた哀れな男のただのプライドだ。
それでも僕は君の彼氏なのだと必死に言い聞かせてる」
愁夜モノ:背中で君が泣いている。
小さく肩を震わせて、
何度も『ごめんなさい』と呟いては
僕の背中を濡らしていく。

