ナレーション
『私立鳳凰学園には、
ふたつの冷たい星がある。
皇愁夜と藤堂椿である。
彼らは互いの家の勢力拡大のために、
齢6歳にして婚約者となる……のだが?』
◯黒塗りの高級車に載せられた
齢6歳の頃の椿が腕を組んで
何やら必死に考えこんでいる。
椿の母「いいですね、椿。
あなたはこれから未来の夫となる方と
お会いするのです。
くれぐれも粗相のないように」
椿モノ:なんか知っている。
このシチュエーション。
椿の母「その方の名は……」
椿モノ:確かに俺は
このシチュエーションを知っているのだが……
はて……。
椿の母「皇愁夜」
椿「あっ!」
※椿、目を見開く。
椿モノ:その名前を聞いた瞬間、
すべての記憶がつながった。
これは、俺が前世で愛読していた少女漫画
『冷たき星のもとに』の世界じゃねぇか!
椿モノ:前世、俺はとってもガタイがイカツイ
男子高校生だったのだが、
男のくせに少女漫画を愛読する
一風変わった趣味の持ち主でもあった。
ある日美容師志望の兄のコンテストの
カットモデルになるために、
髪を赤く染めたら、不良に絡まれて、
抵抗したら挙げ句
ナイフで刺されて死んでしまったというわけだ。
椿「ってことは……俺は転生したのか」
※椿、小さな声でブツブツ言っている。
椿「今の俺の名前は藤堂……椿。
……って藤堂椿?!」
※いきなり素っ頓狂な声を出した椿に
椿母と運転手が怪訝そうな顔をする。
椿「失礼……いたしました」
※椿、小さな咳払いをして詫びる。
椿モノ:ヤバい、ヤバい、ヤバい……
藤堂椿はマジでヤバい。
※椿青ざめる。
椿モノ:藤堂椿とは
この話のヒーロー『皇愁夜』の婚約者で、
ヒロイン高山葉月を徹底的にいじめ抜く
典型的な悪役令嬢なのである。
その後、ヒロイン高野葉月と結ばれた皇愁夜は、
テンプレ通りに藤堂椿と婚約破棄、
そして藤堂椿を断罪し破滅へと追いやる。
椿「アイタタタ、お母様、
わたくしなんだかお腹が痛いの。
やっぱり今日の顔合わせは無理みたい」
※椿、お腹が痛いと言いながら、頭を押さえている。
椿母「嘘おっしゃい!
お腹が痛いと言いながら
頭をおさえているじゃない!
篠原、そちらを押さえて」
椿「あ〜れ〜!」
※椿、母とSPに脇を押さえられ、
皇邸に連行される。
◇◇◇場面転換◇◇◇
客間に通された椿に、愁夜が見惚れる。
椿「お初にお目にかかります。
藤堂椿と申します」
※しおらしく挨拶をする美少女椿。
愁夜モノ:ヤッベー、なにこれ、
超かわいいんですけどぉぉぉ。
※椿と愁夜の視線が合うと、
愁夜は激しく赤面する。
愁夜「なんだよ! このブスっ! こっち見んな!」
※恥ずかし紛れにうっかり言ってしまう。
椿「あら、やだ♡ おほほほほ」
※椿、愁夜を笑顔で殴る。
※吹っ飛ぶ愁夜。
※騒然となる会場。
皇母「まあっ、なんということをっ!」
椿母「申し訳ございません」
※椿父母、顔色を変えて平身低頭に謝る。
椿母「椿、あなたもお謝りなさいっ!」
椿「いいえ、お母様、わたくしは謝りませんわ。
先に暴言を吐いたのはそちらではありませんか」
※椿は腕を組んでそっぽを向く。
椿モノ:これだけ派手にやっとけば、
多分婚約の話はチャラだ。
※椿ほくそ笑む。
※愁夜、立ち上がってぐいっと拳で口元を拭い、
にんまりと笑う。
愁夜「謝る必要はありません。藤堂さま、
ですが、この件については
相応の慰謝料をいただくことにいたします。
何せ彼女は皇家次期当主である
この僕に手を上げたのですから」
※愁夜にっこりと微笑む。
椿父「あの……それは……
一体如何ほどになるのでしょうか?」
※青ざめる椿の父母。
愁夜「なぁに……」
※次の瞬間、椿の唇を奪う愁夜。
椿「ふごぉっ!」
※椿、白目を剥いて失神する。
愁夜「お嬢さんの唇ですよ」
※ニッコリと笑う愁夜。
愁夜「これで手打ちといたしましょう。
それと正式に僕と椿さんの婚約を
弁護士を通して書面にして
いただけませんでしょうか?」
※椿、むっくりと起き上がる。
椿「ちょっと待て!
勝手に話を進めてんじゃねーぞ!
お前、さっき俺のこと
ブスって言ったじゃねぇかっ!」
※愁夜、ひどく赤面する。
愁夜「そっそれは、言葉のアヤでっていうか、
そのっ……あれだよ。
つまり……復讐……? みたいな?
えっと……君はこの僕を殴ったんだよ?
それがどういうことか、
ちゃんとわかってる?
ふ、ふんっ!
この僕に跪いて生涯をかけて償えよ!」
※愁夜、恥ずかしさを隠すために慇懃無礼に振る舞う。
椿「はぁ?」
※売り言葉に買い言葉で、
一触即発状態の二人の間に
愁夜専属執事の水無瀬が割って入る。
水無瀬「え〜、コホン。
愁夜様のお言葉を要約いたしますと、
つまり
『椿さまのことを大変気に入りました。
つつが無くこの婚約を進めてください』と
そういうことでございますね? 愁夜さま」
※愁夜激しく赤面する。
愁夜「そっ……それを言ったら身も蓋も……」
※愁夜、小さな声で小さくごにょごにょ言っている。
椿モノ:こうしてこの日、俺達は両家の両親立会いのもと
正式に婚約の証書を交わしたのだった。
◇◇◇そして10年後◇◇◇
※高1になった椿が、
『私立鳳凰学園』の銘が刻まれた学校銘板にそっと触れる。
椿モノ:俺達は高1になり、
物語の舞台となる、
この鳳凰学園高等部に進学したのだった。
女生徒「キャー! 愁夜さま」
※車から降りてきた愁夜を
女生徒たちが取り巻き、鈴なり廊下状態になる。
椿「けっ!」
※そんな愁夜を冷めた眼差しで一瞥する椿。
愁夜「おはよう、藤堂さん」
※愁夜、にっこりと椿に笑いかける。
椿「ごきげんよう、皇さま」
※椿も完璧令嬢藤堂椿を演じるべく
笑顔を取り繕う。
女生徒「はぁ〜素敵ねぇ、
さすがは鳳凰学園の王子と姫、
絵になるわぁ〜」
※愁夜の取り巻きが、
椿に恭順の意を示して一斉に引き下がると、
愁夜が椿のもとに歩みよって、
教室に向かって一緒に歩き出す。
愁夜「今日はいい天気だね、藤堂さん。
そろそろ結婚しよっか」
※愁夜、愁夜にっこりと椿に微笑みかける。
椿「お前頭湧いてんのか? ぶち殺すぞ♡」
※椿もにこやかに応じる。
『私立鳳凰学園には、
ふたつの冷たい星がある。
皇愁夜と藤堂椿である。
彼らは互いの家の勢力拡大のために、
齢6歳にして婚約者となる……のだが?』
◯黒塗りの高級車に載せられた
齢6歳の頃の椿が腕を組んで
何やら必死に考えこんでいる。
椿の母「いいですね、椿。
あなたはこれから未来の夫となる方と
お会いするのです。
くれぐれも粗相のないように」
椿モノ:なんか知っている。
このシチュエーション。
椿の母「その方の名は……」
椿モノ:確かに俺は
このシチュエーションを知っているのだが……
はて……。
椿の母「皇愁夜」
椿「あっ!」
※椿、目を見開く。
椿モノ:その名前を聞いた瞬間、
すべての記憶がつながった。
これは、俺が前世で愛読していた少女漫画
『冷たき星のもとに』の世界じゃねぇか!
椿モノ:前世、俺はとってもガタイがイカツイ
男子高校生だったのだが、
男のくせに少女漫画を愛読する
一風変わった趣味の持ち主でもあった。
ある日美容師志望の兄のコンテストの
カットモデルになるために、
髪を赤く染めたら、不良に絡まれて、
抵抗したら挙げ句
ナイフで刺されて死んでしまったというわけだ。
椿「ってことは……俺は転生したのか」
※椿、小さな声でブツブツ言っている。
椿「今の俺の名前は藤堂……椿。
……って藤堂椿?!」
※いきなり素っ頓狂な声を出した椿に
椿母と運転手が怪訝そうな顔をする。
椿「失礼……いたしました」
※椿、小さな咳払いをして詫びる。
椿モノ:ヤバい、ヤバい、ヤバい……
藤堂椿はマジでヤバい。
※椿青ざめる。
椿モノ:藤堂椿とは
この話のヒーロー『皇愁夜』の婚約者で、
ヒロイン高山葉月を徹底的にいじめ抜く
典型的な悪役令嬢なのである。
その後、ヒロイン高野葉月と結ばれた皇愁夜は、
テンプレ通りに藤堂椿と婚約破棄、
そして藤堂椿を断罪し破滅へと追いやる。
椿「アイタタタ、お母様、
わたくしなんだかお腹が痛いの。
やっぱり今日の顔合わせは無理みたい」
※椿、お腹が痛いと言いながら、頭を押さえている。
椿母「嘘おっしゃい!
お腹が痛いと言いながら
頭をおさえているじゃない!
篠原、そちらを押さえて」
椿「あ〜れ〜!」
※椿、母とSPに脇を押さえられ、
皇邸に連行される。
◇◇◇場面転換◇◇◇
客間に通された椿に、愁夜が見惚れる。
椿「お初にお目にかかります。
藤堂椿と申します」
※しおらしく挨拶をする美少女椿。
愁夜モノ:ヤッベー、なにこれ、
超かわいいんですけどぉぉぉ。
※椿と愁夜の視線が合うと、
愁夜は激しく赤面する。
愁夜「なんだよ! このブスっ! こっち見んな!」
※恥ずかし紛れにうっかり言ってしまう。
椿「あら、やだ♡ おほほほほ」
※椿、愁夜を笑顔で殴る。
※吹っ飛ぶ愁夜。
※騒然となる会場。
皇母「まあっ、なんということをっ!」
椿母「申し訳ございません」
※椿父母、顔色を変えて平身低頭に謝る。
椿母「椿、あなたもお謝りなさいっ!」
椿「いいえ、お母様、わたくしは謝りませんわ。
先に暴言を吐いたのはそちらではありませんか」
※椿は腕を組んでそっぽを向く。
椿モノ:これだけ派手にやっとけば、
多分婚約の話はチャラだ。
※椿ほくそ笑む。
※愁夜、立ち上がってぐいっと拳で口元を拭い、
にんまりと笑う。
愁夜「謝る必要はありません。藤堂さま、
ですが、この件については
相応の慰謝料をいただくことにいたします。
何せ彼女は皇家次期当主である
この僕に手を上げたのですから」
※愁夜にっこりと微笑む。
椿父「あの……それは……
一体如何ほどになるのでしょうか?」
※青ざめる椿の父母。
愁夜「なぁに……」
※次の瞬間、椿の唇を奪う愁夜。
椿「ふごぉっ!」
※椿、白目を剥いて失神する。
愁夜「お嬢さんの唇ですよ」
※ニッコリと笑う愁夜。
愁夜「これで手打ちといたしましょう。
それと正式に僕と椿さんの婚約を
弁護士を通して書面にして
いただけませんでしょうか?」
※椿、むっくりと起き上がる。
椿「ちょっと待て!
勝手に話を進めてんじゃねーぞ!
お前、さっき俺のこと
ブスって言ったじゃねぇかっ!」
※愁夜、ひどく赤面する。
愁夜「そっそれは、言葉のアヤでっていうか、
そのっ……あれだよ。
つまり……復讐……? みたいな?
えっと……君はこの僕を殴ったんだよ?
それがどういうことか、
ちゃんとわかってる?
ふ、ふんっ!
この僕に跪いて生涯をかけて償えよ!」
※愁夜、恥ずかしさを隠すために慇懃無礼に振る舞う。
椿「はぁ?」
※売り言葉に買い言葉で、
一触即発状態の二人の間に
愁夜専属執事の水無瀬が割って入る。
水無瀬「え〜、コホン。
愁夜様のお言葉を要約いたしますと、
つまり
『椿さまのことを大変気に入りました。
つつが無くこの婚約を進めてください』と
そういうことでございますね? 愁夜さま」
※愁夜激しく赤面する。
愁夜「そっ……それを言ったら身も蓋も……」
※愁夜、小さな声で小さくごにょごにょ言っている。
椿モノ:こうしてこの日、俺達は両家の両親立会いのもと
正式に婚約の証書を交わしたのだった。
◇◇◇そして10年後◇◇◇
※高1になった椿が、
『私立鳳凰学園』の銘が刻まれた学校銘板にそっと触れる。
椿モノ:俺達は高1になり、
物語の舞台となる、
この鳳凰学園高等部に進学したのだった。
女生徒「キャー! 愁夜さま」
※車から降りてきた愁夜を
女生徒たちが取り巻き、鈴なり廊下状態になる。
椿「けっ!」
※そんな愁夜を冷めた眼差しで一瞥する椿。
愁夜「おはよう、藤堂さん」
※愁夜、にっこりと椿に笑いかける。
椿「ごきげんよう、皇さま」
※椿も完璧令嬢藤堂椿を演じるべく
笑顔を取り繕う。
女生徒「はぁ〜素敵ねぇ、
さすがは鳳凰学園の王子と姫、
絵になるわぁ〜」
※愁夜の取り巻きが、
椿に恭順の意を示して一斉に引き下がると、
愁夜が椿のもとに歩みよって、
教室に向かって一緒に歩き出す。
愁夜「今日はいい天気だね、藤堂さん。
そろそろ結婚しよっか」
※愁夜、愁夜にっこりと椿に微笑みかける。
椿「お前頭湧いてんのか? ぶち殺すぞ♡」
※椿もにこやかに応じる。

