さぁ殿下、流行りの婚約破棄をいたしましょう



彼らの背中が見えなくなると、近くにいた令嬢が声をあげる。

「王国始まって以来の淑女と呼ばれるシャルロット様に、女性としての在り方を学べだなんて……!」
「失礼にも程がありますわ。先ほどのご令嬢たちは誰一人マナーというものを知らないというのに」
「第三王子殿下は、一体なにを考えていらっしゃるのかしら」
「……なにも考えていないのだろう。彼が第三王子で本当によかった」

令嬢の嘆きに、隣にいた令息がため息をつく。

(その意見、まるっと同意ですわ。アラン殿下に王位継承権があったらと考えるだけで、恐ろしくなるもの)

そう。第三王子殿下に、王位継承権はない。王家に残るのは王位継承権二位の王子まで。三位以下の者は、臣籍に降下すると定められている。

だからこそ、私との婚約が王命として下ったのだ。

「みなさま、静かに見守っていただき感謝いたしますわ」

私はその場にいた方々に、小さく頭を下げる。

あのような振る舞いを黙ってみているだなんて、きっと相当な精神的負担をかけてしまったに違いない。

「シャルロット様が謝られることはありませんわ!」
「そうですわ、理不尽な言いがかりをつけていらっしゃるのは、あちらですもの」
「ですが……よろしいのですか? サンドリーヌ様のあのような振る舞いをお許しになって」

心配してくださる令嬢方に、私は笑みを浮かべて頷いてみせた。

「えぇ。もう少しだけ、見守ってくださるとありがたいですわ。それと……」

私は、小さく嘆息して後方へと視線を向ける。

「ユリウス殿下。そこにいらっしゃるのでしょう」

私がそう言うと、植木の影からひとりの男性が姿を表した。

王家の証であるシルバーの髪と紫色の瞳はアラン殿下と同じ色。けれど剣の鍛錬を嫌うアラン殿下とは違い、彼は騎士にも負けず劣らずのたくましい肢体の持ち主だ。

「さすがロッティ。まさか気付かれていたとは思わなかったよ」

悪びれなく微笑む彼は、ユリウス・アルゼリア殿下。この国の第二王子で、私とアラン殿下のひとつ年上の十八歳。

ユリウス殿下の突然の登場に、周囲の生徒たちも驚いている。

「あのように大声で笑えば、嫌でも気がつきます」
「だって、君があのご令嬢をヘビみたいに言うから」
「ヘビの方が賢いですわ。調教次第で芸も仕込めると聞きますもの」

私が嫌そうに言うのがおかしかったのか、ユリウス殿下は「ぶふっ」と噴き出す。

相変わらず、笑い上戸なお方だわ。

「はぁ、可笑しい。相変わらずだね、ロッティ」
「お褒めにあずかりまして光栄です。ところで、殿下はいつご帰国されましたの?」
「一昨日だよ。……色々あってね」

含みのある言い方が気になったものの、彼はそれ以上説明するつもりはないようだ。

「随分不思議なものが学園で流行ってるって聞いたんだけど。愚弟にも困ったものだね」

ユリウス殿下の言葉に、ギクリと身体が強張る。いつから私たちの会話を聞いていらしたのかしら。