「それから、サンドリーヌをいじめるのはやめろ!」
「なんのお話でしょう? 私はいじめなどしておりません」
「いじめをする者は皆そう言うのだ。だが、サンドリーヌが悲しい思いをしたと言っているのが、なによりの証拠だ」
「殿下ともあろうお方が、一方の話のみで物事を判断するのは、いかがなものかと思いますが」
「黙れ! か弱き令嬢に向かって人前で『はしたない』などと咎めたのだろう。なぜそのような非道な行いができるのだ」
「大声で話し、口を開けて笑い、婚約者のいる男性と親しげに腕を組む行為は、私たち貴族の令嬢の間では『はしたない』と注意されるべき言動ですわ」
周囲の令嬢たちの視線が、一斉に殿下とサンドリーヌ様へと向けられる。
微塵もあたたかくない、冷ややかで真っ白な目を向けられ、殿下はややたじろいだ。そして、自身の腕に添えられているサンドリーヌ様の手を、そっと外す。
意外なことに、私という婚約者がいながら別の令嬢を侍らせることがよくないことだという認識はあるらしい。
それなのに、昨日のパーティーではあの振る舞いだったのね。
「そっ……それならば、ふたりきりの時に優しく口添えすればいいではないか」
冗談じゃないわ。サンドリーヌ様とふたりきりになるだなんて、それこそどんな難癖をつけられるかわかったものではない。
「その場でひと言注意すればすむものを、わざわざ呼び立てて話したりはいたしません」
たしかに私は以前、サンドリーヌ様に注意をしたことがある。
アラン殿下ではなく別の男性の腕に抱きつき、廊下で大声ではしゃぐ彼女に、『いささかはしたないですわ。それに、彼には婚約者もおります。ご存知でしょう?』と、周囲に聞こえる声で告げた。
その伯爵令息は迷惑そうにしていたし、後に私に感謝の意を伝えてくれたわ。男性ならばみんな自分の虜にできると思い込んでいるサンドリーヌ様は、それに気付いてはいないでしょうけれど。
「皆の前で注意するなど、悪意しか感じられぬ。いじめと捉えられても言い訳はできん!」
私は大きくため息をつきたいのを堪え、真っすぐに殿下を見据えた。
「お言葉ですが、では今殿下が私になさっていることは、いじめと捉えてよろしいのでしょうか?」
「……なんだと?」
「わざわざ皆の前で、私には身に覚えのない件を糾弾なさっておいでですが。殿下のお言葉をお借りするのならば、悪意しか感じられない、ということになりますわね」
自分が放った言葉の矛盾に気がついたのだろう。殿下はぎゅっと唇を噛みしめて俯いた。なにも言い返せないまま、羞恥なのか屈辱なのか、肩がぷるぷると震えている。
そのままこの場を去ってくれればいいものを、なぜ留まっているのかしら。
すると、ぷるぷるしているアラン様を庇うように再び彼の腕に絡みつき、サンドリーヌ様が声高に叫ぶ。
「シャルロット様、ひどいわ! アラン様はあなたの婚約者なのでしょう?」
「……それをわかっていて、あなたはまた殿下の腕に巻きついているのね」
私の『巻きついている』という言い方がおかしかったのか、どこかから「ぶふっ!」という男性の堪えきれない笑い声が聞こえた。
(この笑い方、まさか……)
聞き覚えのある声に気を取られたけれど、すぐにサンドリーヌ様の不愉快な言葉に思考を奪われる。
「シャルロット様は婚約者のアラン様に相手にしてもらえないから、私やアラン様に意地悪を言っているのね。私が羨ましくて、嫉妬していらっしゃるんだわ」
「嫉妬ですって?」
「嫉妬だと?」
私の不愉快な声音と、殿下の意外そうな声が重なった。
その『真相を見つけた!』みたいな表情、やめていただきたいわ。
なんだか、もの凄く嫌な予感がする。


