さぁ殿下、流行りの婚約破棄をいたしましょう


「アラン様。きっとシャルロット様は私たちが一緒にいたから怒ってしまったのよ。ごめんなさい、シャルロット様。アラン様の婚約者はシャルロット様ですものね。アラン様に一緒に中庭に行こうって誘われて、嬉しくなって一緒についてきてしまった私が悪いの……」

サンドリーヌ様は両手を胸の前で組み、潤んだ瞳を向けてくる。彼女を見ていた下位貴族の令息たちは「ほぅっ」と感嘆のため息をついた。心を寄せる男性を庇う健気な言動に騙され、すっかり彼女の虜になっているらしい。

(なんて単純なのかしら……)

それは、殿下にも同じことが言えるのだけれど。

「いや、君が気に病む必要はないさ」
「でも私がアラン様と仲良くしているせいで、シャルロット様はアラン様に話しかけられても知らんぷりをしているのでしょう? そんなこと、この国の王子様であるアラン様にしていいことではないわ。だから、やっぱり私が悪いの。私がシャルロット様を怒らせてしまったから……ごめんなさい……」
「違う。サンドリーヌが謝る必要はないんだ」

……一体、何を見せられているのかしら。

悪いと思うのならばここへ来なければいいし、すぐにでも距離を置けばよろしいのに。それをしないのは、少しも悪いと思っていない証拠でしょう。

それにしても、ほろほろとよく涙が出るものね。感心してしまうわ。

「それで、一体なんのご用でしょうか?」

私はなんとも言えない胸のモヤモヤを心の内に隠しつつ冷静に尋ねると、アラン殿下はサンドリーヌ様に向けていた優しげな表情を一変させ私を睨みつけた。

「シャルロット! 優しいサンドリーヌがお前のことでこんなにも心を痛めているというのに、何か言うことはないのか」
「はぁ。そう仰られましても、私は怒っておりませんし、サンドリーヌ様がなにを気に病んでいらっしゃるのか理解しかねます。それに、お声を掛けてこられたのは殿下ですわ。次の授業の準備がありますので、手短にお願いできますでしょうか」
「なっ……!」

殿下は顔を真っ赤にして怒りをあらわにした。

「言いたいことはいくつもある! 昨日はなぜ俺の許しも得ず先に帰ったのだ」
「殿下はご学友方と楽しそうにされていましたので、お声をかけるのをご遠慮したのです。それに、私がいなくともエスコートするご令嬢はいらっしゃったようなので」

そう告げると、殿下の隣でサンドリーヌ様が得意げな笑みを浮かべている。優越感に浸って、ご満悦の様子ね。

「そっ、そうだとしても、仮にも婚約者が勝手にパーティーからいなくなるなど、俺が周囲からどう思われるか考えなかったのか」
「……はぁ」

仮にも婚約者が同じ会場にいるにもかかわらず別の令嬢をエスコートしている時点で、白い目で見られていましたわよ?

もしかしたら私が帰ったあとで、誰かに苦言を呈されたのかしら。そこで初めて私がいないことに気付いて、恥をかかされたとでも考えたのかもしれない。

なんにせよ、とんでもない言いがかりだわ。

呆れて曖昧に頷いていると、殿下はさらに詰め寄ってくる。

「なんと配慮がないのだ。今後は先に帰る場合は俺に声を掛けろ」

配慮がないだなんて、そのお言葉をそっくりそのままお返ししますわ。そもそも別々に帰る前提というのがおかしな話だと気づかないのかしら。口に出しては言わないけれど。